2024年11月22日(金)

易経に学ぶリーダーシップ

2016年12月17日

その部下は、自分の言葉で語ることができるか

 ところで、「大人を見るに利し」という言葉は、二番目と五番目の爻辞に出てきます。朱子によると、二番目の爻辞でいう大人とは、まだ天子の位についてはいないが、天子の徳がすでに現れている者をいうとしています。さらに続けて、占ってみて、この爻が出た人自身に大人の徳があれば、五番目の天子の位にある大人に会うとよいとしています。つまり、向上するためにはよい上司の指導を受けることが必要だということになります。

「実るほど頭を垂れる稲穂かな」(iStock)

 一方で、五番目の爻辞の場合は、すでに天子になっている人が占ってこの爻が出たら、まだ高位につけないでいる徳のある大人を見出すとよいといっています。つまり、優秀な部下を見つける必要があり、社長といえどもそうした部下の話は聞いたほうがよいということになります。

 ここで、皆さんの中には部下に徳があるかどうかはどうやってわかるのか、と疑問に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。リーダーシップを身につけるには、人を見る目を養うことも重要な仕事になってきます。

 私自身は、たとえ若者であっても、周りの人のいうことに聞く耳をもち、自分自身の言葉でどのような政治、あるいは事業を実現したいのか、また世の不条理をどう考えるのかについて具体的な意見を語れる人物が、とりあえずは見込みがあると考えます。そのような人物を見つけたならば、自分のそばに置き、日常的に話をして、その人の徳を見極めることが大事ではないかと思っています。さて、皆さんの周りにこのような若者がいるでしょうか。いたらぜひ、その若者とつきあってみてはいかがでしょう。

リーダーこそ謙虚であれ

 ところで、今回の乾為天には64の卦の中でもたった2つしかない特別な答えが用意されています。この2つを乾卦(けんか)の用九、坤卦(こんか)の用六といいます。易占いでは、占いの最後に陽が陰に変わり、陰が陽に変わることがあります。「陽満つれば陰となる」「陰満つれば陽となる」という言葉をご存知でしょう。どのような事象であれ、陽でいっぱいになれば次第に陰へと向かうのです。その逆もまた然りです。

 このようなことから、占いの最後になって、すべて陽だったものがすべて陰に変わった場合、あるいはすべて陰だったものがすべて陽に変わった場合は、特別な爻辞をその占いの答えとして読むことになっているのです。そこで、全陽の乾為天と、全陰の坤為地には64卦の中でもたった2つしかない特別な答え、用九と用六が用意されているのです。

 乾為天の用九爻辞は「見羣龍无首。吉」です。「群龍に首(かしら)なきを見る。吉なり」と読みますが、意味としては、「群がる龍にはリーダーがいない、むやみと頭角を現すことなく(人の先頭に立たず)、柔軟な態度を保っていれば吉である」となります。この爻辞の意味は、坤為地の卦辞とも通じます。坤為地の卦辞には「君子有攸往、先迷後得主利」とあり、意味としては、「君子がどこかへ行く場合には、先頭を行けば迷うが、後ろからついて行けばうまくいき、利を得る」となります。

 賢明な皆さんは、この言葉がリーダーシップの否定を説いているのではないことはおわかりだと思います。むしろリーダーとして皆の先頭に立たないことが大事だと教えてくれているのです。

(編集・鮎川京子)

  
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