2024年4月25日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2016年12月27日

 こうしたアメリカ政治に関する当然の知識を身につけるためにも、5年後、10年後でも繰り返し読む価値のあるこの本をお勧めします。骨太の本ではありますが、時間のある年末年始だからこそ読んで欲しいですね。

(武岡先生)

 まず1冊目に選んだのは『「マルタの鷹」講義』(研究社)です。ハードボイルド小説の歴史的名作である『マルタの鷹』を、アメリカ文学が専門の諏訪部浩一・東京大学文学部准教授が、丁寧に読み解いて一冊の本にしたものです。専門家が小説を読むその様は、まるで探偵が事件を丹念に調査していくかのようで、本書自体もハードボイルド小説さながらの強烈な面白さがあります。

『マルタの鷹〔改訳決定版〕』(ダシール ハメット 著)、小鷹信光 翻訳、早川書房)

 提案したい本書の楽しみ方は、暇を持て余す年末年始ならではの方法です。元の小説は、これまで数種類の日本語訳が出版されていますし、ハンフリー・ボガート主演で映画化され、現在ではDVDが安価で手に入ります。小説の方は現在であればハヤカワ・ミステリ文庫で出ている「改訳決定版」がよいでしょう。そこで、まず小説を読んで、映画を見てから本書を読む。あるいは、映画を見て、小説を読んでから本書を読むという楽しみ方です。

 本書では、アメリカ文学研究を専門とする著者ならではの踏み込んだ解釈がされていますが、私のような専門外の素人からすると「本当にそうなのか?」と必ずしも納得できない箇所もあります。例えば、著者によれば主人公のサム・スペードの秘書、エフィ・ペリンは母性的な存在で、主人公との間に肉体関係はありません。しかし私自身は小説を読んだ時、肉体関係はあるという印象を受けました。そういう箇所があればしめたもので、本書から小説に戻り読み返してみる楽しみが生まれます。また、同じように小説、映画、本書全てに目を通すことを友人にも勧め、それぞれの解釈や感想を語り合うのも楽しいのではないかと思いますね。

 2冊目は、ノンフィクションから『シークレット・レース ツール・ド・フランスの知られざる内幕』(小学館文庫)を選びました。

 ツール・ド・フランスの歴史上、最も有名なレーサーのひとりに、ガンに冒されるも克服し、その後7連覇を遂げたランス・アームストロングがいます。本書はこのランスの相棒を一時期務めていた、同じく自転車プロレーサーのタイラー・ハミルトンと、ノンフィクション作家のダニエル・コイルの共著です。ハミルトンの自転車選手としてのキャリアから、ドーピングに手を染めたその後の生活までが描かれています。


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