2冊目は、今年話題となった「トランプ現象」について理解を深めるために、国際基督教大学の森本あんり教授の『反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体』(新潮選書)を選びました。
トランプが大統領選で勝利した要因としては、これまで権力の中枢を握ってきたエスタブリッシュメントへの反発が強くなってきていることがあります。それが民主党の場合、バーニー・サンダース候補支持へ、共和党の場合トランプ支持へとつながった。他の欧米諸国を見ても、英国のEU離脱を指す「Brexit(ブレグジット)」が話題となり、国民投票の結果離脱が決定しましたし、イタリアでは反既成政治を標榜する新興政党「五つ星運動」の躍進などエスタブリッシュメントへの反発、広い意味で言えばポピュリズムが起こっている。
「反知性主義」とは、本書で森本教授が書いている通り「反知性」ではありません。「知性主義」に対する反発です。アメリカでは、ハーバード大学やプリンストン大学、イェール大学といった一部の有力大学出身のエリートが権力と結びついていることへの反発を指します。
今年9月にオハイオ州を始め、トランプ支持者を視察するためにアメリカを訪れ話を聞きました。トランプを支持する反知性主義の担い手たちは、よく勉強をしているし、色々なことを考えています。ただ、これまでアメリカの政界を支配していたエスタブリッシュメントへの反発がトランプ現象の根底にはあった。
この本は、アメリカにおける歴史や信仰のあり方からそのような問題提起をし、アメリカの反知性主義に限定し考察しています。アメリカにとどまらず、他の欧米諸国でも巻き起こる反エスタブリッシュメントの流れを考える上でも参考になる本ではないでしょうか。
そして最後に選んだのは、京都大学、待鳥聡史教授の『アメリカ大統領制の現在ー権限の弱さをどう乗り越えるか』(NHKブックス)です。今年は、アメリカ大統領選が行われたため、アメリカに関する素晴らしい本がたくさん出版されたので悩みましたが、この本を選びました。
巷では、トランプのような人物が大統領になることに対し懸念を抱いている人も多いと思います。それはアメリカの大統領の権限は非常に大きいという前提に無意識のうちに立っているからです。
しかし、実際には憲法の規定上、また議会や裁判所、州政府との関係上、連邦制の観点から権限はさほど大きくありません。この本では、そのことをジミー・カーターからビル・クリントン、オバマまで、比較的長期における大統領の政権運営から考察しています。