11月のアメリカ大統領選を控え、女性初の大統領の座を目指すヒラリー・クリントン民主党候補と、移民排斥など過激な言動で旋風を起こしているドナルド・トランプ共和党候補の争いが注目を集めている。移民の国と言われるアメリカで、なぜこれほどトランプは支持を集めているのか。『移民大国アメリカ』(ちくま新書)を上梓した成蹊大学法学部の西山隆行教授にアメリカ国内での移民像と実際、移民政策、エスニック集団の活動や影響力などについて話を聞いた。
――アメリカ大統領選でのトランプ旋風が止まりません。移民の国という日本人のイメージに反し、トランプ氏の移民排斥発言が支持される理由はどこにあるのでしょうか?
西山:様々な要因が複合的に絡んでいるので、一概には言い切れません。しかし、白人の中でマイノリティに対する危機感があるのは間違いないのだろうと思いますね。
というのも、アメリカ国内における中南米系を除く白人の人口はどんどん減少していて、1960年には総人口の85%を占めていた白人の割合が、2050年には47%まで低下すると予測されています。白人は増え続ける中南米系やアジア系の移民に対し、自分たちがマジョリティではなくなってしまうことへの危機感が非常に強い。
――確認したいのですが、ここで言う白人とはアングロサクソンでプロテスタントのいわゆるWASPではないですよね?
西山:トランプを支持している人たちは必ずしもWASPではありません。宗教的にはカソリックで、イタリア系やポーランド系で、WASPとは違い決して社会的に成功してはいない。祖先が2世代前くらいの20世紀初頭にアメリカへ移住し、差別を受けながら苦労して生活してきた人たちで、裕福ではありません。ただ、福祉に依存せずに生活してきた自負があるゆえに、他人の福祉のために税金を払いたいとは思わないという人たちがトランプを支持しているんです。
――アメリカ国内において、白人は黒人や中南米系などが福祉に頼って生活しているというイメージを持っているのでしょうか?
西山:アメリカである人が言うところでは、「アメリカらしい」「アメリカらしくない」と「優秀である」「劣っている」という2つの軸で考えると、白人は「アメリカらしく、優秀である」、黒人は「アメリカらしく、劣っている」と考えているようです。また、アジア系は「アメリカらしくなく、優秀である」と言われ、アメリカ社会ではモデルマイノリティという言い方もされます。これに対し、最近増加している中南米系に関しては、「アメリカらしくなく、劣っている」とかなりの人が考えているようです。