2024年4月18日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2016年9月29日

 先程のグランデール市にしろ、ニュージャージー州にしろ、慰安婦問題で言われているのは、アメリカ国内のコリア系が熱心なのではなく、韓国のNGOが中心となり、あたかもアメリカ国内のコリア系が熱心に活動しているような印象を持たせているということです。

 エスニックロビイングの難しいところは、事例ごとに性格が違いますし、国内問題なのか、それともトランスナショナルな政治なのかの区別がハッキリしないところです。

――それでは最近急増している中南米系のロビー活動はどれくらいの影響力を持っているのでしょうか?

西山:都市政府レベルでは影響力を持ってきていると言えると思います。中南米の国々では2重国籍を認めている場合があります。中南米系の人達の中には、アメリカ国内で働き、お金を稼いだら出身国に戻りたいと考えている人達がいます。そこで母国へ戻った時に、子供が言葉で苦労しないように、学校の授業を英語ではなく、スペイン語で授業を行ってほしいという主旨のロビイングをしている団体もあります。そうした団体の影響力は相当大きいですね。

――連邦政府レベルではどうでしょうか?

西山:大きく変わる可能性はありますが、よくわからないところがあるのも事実です。

 現在、共和党はマイノリティからの票をほとんど獲得出来ていない状況で、民主党は逆に白人からの票を得られなくなっています。中南米系の人口比率が増え、白人の人口比率が下がるこれからの状況を考えると、共和党は中南米系などのマイノリティの票をどうしても獲得したい。そこで、2014年の中間選挙後から党のあり方を変えようと努力し始めた候補者が増えてきました。例えば、ジェブ・ブッシュ。彼の奥さんはメキシコ系で、彼自身もスペイン語を流暢に話しますから、メキシコ系コミュニティを取り込もうとしていました。また、中南米系のルビオの活躍もありましたが、トランプで吹っ飛んでしまった。

 しかしながら、共和党が従来の党のあり方を変えていく可能性は高いです。その1つに、犯罪問題への対応が考えらます。そもそも共和党は伝統的に犯罪対策強化を謳ってきましたが、ここ数年その対応に変化が見られます。犯罪対策強化で逮捕者を増やすと、刑務所人口が増えるため、州などが刑務所の運用費用が不足して困っている。刑務所を民営化したけれども、採算が取れないので積極的でない企業が増えてきています。共和党を支持しているティーパーティーからすれば、福祉に予算を使うことですら腹立たしいのに、黒人や中南米系が多い刑務所に予算を投入することはもっと腹立たしい。そこで、共和党のギングリッチ元下院議長が、ここ数年変革しようとしています。ただ、ティーパーティーは予算削減が目的ですが、ギングリッチは目立たない形で黒人や中南米系の票を獲得する1つの方法だと言い始めているんです。


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