2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年8月26日

 フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのフィリップ・スティーブンスが、7月21日付同紙に掲載された論説で、世界が無秩序化していることに警鐘を鳴らしています。論旨、次の通り。

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垣間見える国際システムの破損

 トランプが共和党の大統領候補に指名され、エルドアンはクーデター失敗を受け、権威主義的統治を強め、仏では大きなテロがあった。これに加え、西側に打撃を与えた英国のEU離脱、南シナ海での中国の仲裁裁判判断拒否があった。これらの事柄は一見無関係である。トランプは「九段線」のことを知らないだろうし、ボリス・ジョンソンはトルコの民主主義よりトルコ移民締め出しに関心がある。ニースのテロはイスラム国の宣伝によりも犯人の精神状態による。

 しかしもっとよく見ると、不快なパターンが出てくる。ナショナリズムの台頭、アイデンティティ政治、規範に基づく国際システムの破損が見られる。まだホッブス的世界(注:すべての人がすべての人と闘争する世界)とは言えないが、行きつく先は明らかである。

 欧州の右と左のポピュリズムは、経済困難と中東・アフリカの難民流入の恐怖で強くなっている。フランスの国民戦線、イタリアの5つ星運動、スペインのポデモス、ドイツの「ドイツのための選択」が台頭している。戦後続いてきた中道右派と中道左派間の政権交代はひっくり返されている。

 トランプ指名と英のEU離脱は次元が違う。トランプは共和党を掌握し、世論調査によると、外国人嫌い、孤立主義、経済的ポピュリズム、反エリート主義に基づく彼の綱領を、米国人の5分の2の人が支持している。英には欧州懐疑派はいつもいたが、離脱投票はより広い不満による。ブリュッセルはグローバリゼーション、移民、経済困難の元凶とされた。

 トランプはメキシコ移民何百万を追放し、イスラム教徒の入国の禁止を主張している。英の強硬な離脱派は、英国海峡に壁を作ると約束し、EUに残留すれば国民保健サービスは何百万のトルコ人に開放されると誤った主張をした。
ポピュリストは愛国心を民族主義で置き換え、エリートと結託した専門家や伝統的制度を軽蔑し、大企業、銀行、グローバリゼーションは白人労働者階級の敵であるとしている。この路線をもう少し行けば、1930年代の「ユダヤ陰謀」説に行きつくだろう。

 有権者を責めるわけにはいかない。彼らは正当な不満を持つ。リベラル資本主義は豊かな人を優遇した。平均所得は停滞した。政治は自己満足に陥った。しかしポピュリストの処方箋は明らかにインチキである。トランプ大統領も、英のEU離脱も、米英を貧しくする。

 問題は他の地域にも起こっている。エルドアンはかつて、欧州をトルコの将来と見ていたが、失敗したクーデターを神の贈り物と称し、専制的支配強化に乗り出している。彼は市場経済より国家資本主義を選好している。プーチンとの関係修復もしている。中東・マグレブで国家は崩壊しており、世俗的民族主義は宗教過激主義にとってかわられている。

 ゼロサム民族主義は西側ポピュリズムの専売ではない。中国はその海洋主張を拒否した仲裁判断を拒否し、世論は主権からの譲歩を許さないと述べた。中国はその台頭前に書かれた国際法に縛られないとのメッセージを送っていると言う人もいる。

 最近、西側のある外交官が中国の拒否は戦後秩序への反抗であると述べた。その後、共和党大会での演説を聞いた。そこでは国際法尊重は言われなかった。どちらかがどちらかを正当化することはない。しかし一緒にして考えると、これらは我々がどこに向かっているのかについて警告をしている。

出典:Philip Stephens,‘Global disorder: from Donald Trump to the South China Sea’(Financial Times, July 21, 2016)
http://www.ft.com/cms/s/0/7146f3b6-4e6c-11e6-88c5-db83e98a590a.html#axzz4F0yXOZ5r


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