2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年8月26日

 この論説は問題提起としては良いですし、論者の危機意識もよく理解できます。しかし、世界の諸地域で起こっていることを、ポピュリズム、民衆の怒りで説明しようとすることには無理があります。世界全体を理解できるキーワードがあれば便利でしょうが、そういうものは見つけられないと思います。それを見つけようとするよりも、地域、分野の特定の問題を深く分析し、それをベースに適切な処方箋を書いていくのが適切でしょう。

国際秩序を守らせるべく覚悟を決める

 国際法秩序の順守の問題については、ウクライナ問題、南シナ海問題など、あからさまな侵害に対する反応が弱すぎる傾向があります。現在の国際秩序を守るのが良いとする勢力が、もっと腹を決めてきちんと対応するべきでしょう。今なお世界の最強国である米国は、「世界の警察官にはあらず」と強調するのではなく、秩序維持のためには相応の対応をする意思を示すべきでしょう。現状に鑑みると、オバマ政権は、何を強調すべきかの判断が悪いように思われます。

 ナショナリズムは「国民国家」からなる国際社会では常に存在し、それを批判してみても始まらないことです。ナショナリズムの健全化を課題とすべきです。同時に、グローバリゼーションは経済面での現実であり、経済相互依存の象徴とも言えるサプライ・チェーンの存在なしには世界経済は成立しえませんし、この状況に適応しないでは、各国経済の繁栄もないでしょう。ナショナリズムとグローバリゼーションは、両者間のヒッチはありますが、共存関係にあるしかないでしょう。

 この論説の筆者スティーブンスは、「ユダヤの陰謀説」のようなものに行きつく危険への警告もしています。「何々をした」ということではなく、「何々である」ということで他人を差別したり罰したりする思想がファシズムの特徴であり、人間を不幸にする悪であると思います。政治的主張の中に潜むそういう病弊に気を付けていくことが、ナチスやファシズムの再来を防ぐためには大切なのではないでしょうか。

 

  
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