2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年1月16日

 上記論説は、透徹した見方です。アレッポの陥落の真の勝者はイランだと言います。ロシアとイランがこの時点で勝負に出てきたのはトランプ政権の発足の前に既成事実を作っておきたいとの判断があったと筆者は述べます。他の専門家も同様の分析をしています。

 米国はロシア、イランと話し合いによってアサドの退陣時期を勝ち取るべきだと筆者は述べますが、それが可能かどうかわかりません。退陣というよりも権力共有を考えるということではないでしょうか。しかし、交渉によって問題を解決すべきというのは望ましい方向です。国連事務総長も代わるこの機会を良い方向に生かすよう努力すべきです。

 シリア紛争は残酷な戦いです。多くの市民が犠牲になってきました。12月5日、アレッポへの人道支援のための安保理決議がロシアと中国の拒否権で否決されましたが、両国の責任は大きいです。なお報道によれば、反政府勢力とアサド側は市民の脱出につき合意をしましたが、秩序ある避難を確保すべきです。

 シリアの紛争は多面的な戦いです。それには、ISとの戦い、アサドと反政府勢力の戦い、トルコとクルドの戦いがあり、それに外部勢力(ヒズボラ、米国、イラン、ロシア、サウジなど)が絡んでいます。アレッポはこのうちアサド(それを支援するロシア、イラン、ヒズボラ)と反政府勢力の戦いでした。アレッポはシリアの第一の都市であり、経済・金融のセンターでもあります。アサドにとり最も重要な勝利です。これでアサドはシリアの心臓部を確保しました。

今後シリアはどうなるのか?

 反政府勢力は支配地域であるイドリブ州に避難するようですが、今後同地域でアサド側との戦いが始まるとの見方もあります。反政府勢力も、トランプ新政権の出方待ちでしょう。

 オバマにとりアレッポ陥落はもう一つの失敗となりました。もっと早い段階で行動していればこんなことにはならなかったかもしれません。2013年秋のオバマのレッドラインに係る不介入の判断は最初の節目でした。

 今後のシリアはどうなるのでしょうか。先ずトランプ政権の発足を待つ必要があります。しかし統一された政策が出てくるかどうか覚束ありません。トランプの考え(ロシアとの緊密な関係)、フリン安保補佐官(イランに強硬)、マティス国防長官(厳しい軍人、イラン核合意の破棄には反対)など主要人物の意見は揃っていません。ティラーソン国務長官の中東政策も明らかではありません。

  
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