父の浩司は、普通のサラリーマンのように娘の美月と一緒に家を出る。しかし、会社で待っているのは、仕事とは言えない、パンフレットの封筒詰めの作業である。リストラのために俗にいう「追い出し部屋」である。浩司は家族にそんな状態をいってはいない。
ドラマは一転して、幸せそうな家族が抱えるさまざまな問題を浮かび上がらせる。脚本の井上由美子の筋立てとシーンの展開は巧みである。
仕事の問題も母親に相談する娘
母の顕子にも親との葛藤(かっとう)の過去がありそうである。老人施設に入居している母の川端玲子(大空眞弓)は、訪ねてきた顕子にいう。
「わたしに裏切られたのをいまでも恨んでいるのかい? 息子も頼りにならないし、わたしのいまの希望の星は美月だけさ」
顕子は教師を目指していたらしい。母親に従順な美月は、母の夢を継いで教師になったのだろうか。
担任している後藤礼美(石井杏奈)が、欠席が多く、授業にでないで保健室にいるときに、礼美に尋ねられる。「どうして教師になったのか?」と。答えられない美月だった。
礼美に対する美月の対処方法は、いちいちラインで母の顕子に相談して助言した通りをやっているにすぎない。
「いつまでも保健室にいてもいいんだよ」といって、親身になってやることや、自宅を訪問して話し合うことも。保健室では「教室に戻ります。保健室で小言をいわれたくないから」といなされ、自宅の訪問では礼美の母が初めて欠席を知ったために、修羅場となって怒鳴られたうえに追い出される。
わき役陣も魅力的な人物像
人とひととのつながりのなかで、親子関係ほどやっかいなものはないのではないか。お互いにお互いをわかっていることが前提となって、ふれあい、話あっているから、かえってそこに齟齬(そご)ができると、関係は一気に崩壊に向かう。
日本社会はいま、親子同居が急速に進んでいる。未婚の中年が増えているのである。就職氷河期の若者たちが正規労働者にならなかったばかりではなく、親の介護のためなどで、同居して親の年金や預貯金などを当てに生活をしなければならなくなっている。
国勢調査によると、未婚で親と同居している人は約263万人、未婚で一人暮らしの206万人を大きく上回っている。
今回のドラマの主人公である、美月(波瑠)は25歳の設定で年齢が若いが、父親のリストラや母親の過剰な干渉の先には、現代の家族の在り方がはっきりとみえる。