──小泉改革の民営化が「骨抜き」にされたことについて、小泉純一郎元首相や民営化推進委員といった関係者の責任について、どのようにお考えですか?
片桐氏:一番の責任はやっぱり小泉さんでしょうね。小泉さんが「民営化すればムダな道路は造れなくなるはずだ」って、あの時言ったんですよ。でも、ムダな道路を造れなくなるような民営化にしなかったわけです。ずっとムダな道路が造られ続けている。今後もたぶん造られるでしょう。その最初の歯止めをかけるのに失敗したのは、民営化推進委員会の最後の答申を無視したからです。(当初は7人いたが)5人残った民営化推進委員のうち、3人の意見を無視したわけ。多数意見をね。
──答申を無視したのはなぜでしょうか?
片桐氏:やっぱり道路が造れなくなるからですよ。小泉さんにとって、道路族とケンカして小泉劇場を演出することに意味があって、道路族と最後まで争う気はなかったんだと思います。我々のように、本当に民営化ができると期待した人たちは皆踊らされたんだと思います。国民も含めてと言っていいかも。
結局、責任は全部親方日の丸の機構が背負って、会社は経営の自主判断ができない仕組みになってしまった。僕は落第点だと思ったんだけど、民営化推進委員の猪瀬直樹さんと大宅映子さんは及第点だと言った。その責任はないわけじゃないと思いますよ。猪瀬さんは、分割化してトップも民間人になったし、料金も下がったと仰いますけどね。ただ、それは何の成果でもない。道路公団のままでも政治任命でトップを民間人にすることはできたわけです。税金で手当てすれば料金だってそれは下がりますよ。分割も容易にできるんです。
問題は、道路族や道路官僚にとって(新しい道路を造るのに)都合のよい上下分離方式が採用されたことです。民間会社なのに経営の自主判断ができず、経営責任も問われない仕組みになってしまった。僕らは上下一体でなければ意味が無いと言ったけど、道路官僚たちは上下一体だと固定資産税が会社の経営を圧迫するので、借金の返済が遅れると指摘した。でも、そんなことはたいした問題ではないはずです。それより、上下が分離されることによって、見せかけの民営化になることのほうが、よっぽど根の深い問題です。
──その当時、政策を批判した政治家はいたのでしょうか?
片桐氏:個々にはおられました。ただ、あの仕組みをはっきりわかっている方が何人いらっしゃったかは疑問ですね。道路公団の仕組みというのはそもそもわかりづらいんです。問題点がなかなか明確にならないという特徴があります。
例えば、償還主義なんてものは一般の人には理解できないはずです。借金が固定せずに、道路を造るたびに毎年どんどん増えていく。それをどんどん増えてくるだろう収入で返していくって話なんです。こんなものは、普通のローン返済計画じゃあり得ないでしょ。ローン返済計画というのは、非常に厳しめにみて、今の収入のままでもなんとか払える程度に抑える。もし新たに借り入れるなら、その時点の収入で返していけるかどうかきちんと見極める必要がある。でも、償還主義というのは違うんです。後年度にいけばいくほど収入が飛躍的に伸びるという前提で計画を立てている(※下のグラフ参照)。つまり、決めた人が誰も責任を取らないでいい仕組みになってるわけです。だって45年後に現役でいる官僚なんて誰もいませんからね。
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