トランプ劇場型政治
トランプ劇場型政治には主役、共演者、プロデューサー、プロデューサー補佐及び筋書きが存在します(図表3)。トランプ大統領は、主役兼プロデューサーの役を果たしています。米NBCテレビの人気番組「徒弟(アプレンティス)」でも同大統領は司会者兼プロデューサーでした。
共演者は、大統領上級顧問兼首席戦略官で国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーとなったスティーブン・バノン氏です。大統領選で選対本部長を務め現在大統領顧問のケリアン・コンウェイ氏及び政策担当の大統領補佐官で就任演説の草稿に携わったスティーブン・ミラー氏も主役の演技を助けています。バノン氏とミラー氏は、反移民並びに反文化的多様性で一致しています。
トランプ劇場の筋書きは、登場人物(犠牲者とその家族、悪役、ヒーロー)、危機的状況及び解決策から構成されています。例えば、選挙期間中、トランプ候補(当時)は支持者を集めた集会で不法移民によって子供を殺害された母親を舞台に登場さていました。演説の中で、同候補は不法移民が殺人を犯した事例を取り上げ、彼らを悪役として描き、移民対策が機能していないと繰り返し主張したのです。一旦強制送還された不法移民が再度米国に戻ってきて、サンフランシスコで殺人を犯したケース等を紹介して、「犠牲者とその家族対不法移民」という対立の構図を描きます。
次に解決策として、例の「国境の壁」建設及び難民の入国制限を提案し正当化します。そのうえで、犠牲者の母親を抱きしめトランプ氏は自分をヒーローとして演出するのです。
同様に、トランプ大統領は白人労働者及び退役軍人に対しても、彼らの職を奪っている不法移民を悪役にして「白人労働者対不法移民」並びに「退役軍人対不法移民」という対立の構図を作ります。同大統領は「国境の壁」建設、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉及び環太平洋経済連携協定(TPP)離脱を発表し、自分は白人労働者並びに退役軍人が直面している諸問題を解決できるヒーローであるというメッセージを発信しています。
上で述べたトランプ劇場型政治が効果を上げている背景には、ワシントンの職業政治家及びエスタブリッシュメント(既存の支配層)が、不法移民による犠牲者とその家族、白人労働者及び退役軍人を気づかってこなかったことがあります。トランプ大統領はそこに目をつけ、「忘れられた人々対職業政治家」「忘れられた人々対エスタブリッシュメント」という対立の構図も作り、忘れられた人々の心をつかみ味方につけたのです。