消費税の5%へのアップは、1994年の村山内閣(自社さ政権)で決定され、バトンを引き継いだ橋本内閣(同)によって96年の通常国会で法案が成立。一方、96年10月には総選挙が行われ、消費税の5%アップは法律上決定してはいたが、未実施だった(実施は97年4月から)ため、選挙戦の最大の争点となった。与党・自民党は当然、「5%の実施」を主張、野党の新進党(小沢一郎党首)は「3%に戻せ」と主張した。選挙結果は、選挙制度の変更で定数が11議席削減されたにもかかわらず、自民党は公示前の議席よりは28議席も増やし、新進党は敗北した。当然、橋本政権は継続した。
消費税アップは国民の支持を得たのである。この選挙結果は国際的にも歴史的にも注目された。洋の東西を問わず、増税を掲げて選挙に勝利した例は少ない。“鉄の女”と言われた英国のサッチャー首相も「人頭税」で敗北、退陣した。しかし、新税の創設と既にある税の税率アップは違う。教育水準が高く、高度情報化社会の日本では、有権者は「すでに決まったこと。深刻な財政の再建や高齢化社会に備えるために必要」と考えた。野党が選挙直前に大減税構想を打ち上げたが、逆に「選挙目当ての甘言」と有権者がしたたかに見抜いたとも言える。
このことが今、各政党やメディアを含め、忘れ去られている。それだけでなく、98年参院選で自民党が敗北し、橋本首相が退陣し、小渕恵三首相に交代したことと関連づけて、「やはり消費税で負けた」などとごちゃ混ぜに理解されている。しかし、この参院選の時点では既に5%は実施され1年以上経過していて選挙の争点にはなっておらず、むしろ、前年の山一證券や北海道拓殖銀行などの破綻を受けた経済危機、それに伴う失業率の増大、さらには選挙中の橋本首相の「恒久減税」か「恒久的減税」かの発言のブレなどが原因だ。最近では世論調査でも「消費税の引き上げは必要」が過半数を占めているにもかかわらず、今でも「消費税は選挙ではタブー」と思い込み、思考停止している政治家が多い。
参院選の各党の政策では、“逃げ”が目立つ。民主党は「次の衆院選後には消費税を引き上げないと財政が危機的状況になる」との「認識」では一致したが、「選挙前に消費増税はどうか」と小沢一郎幹事長(当時)にストップを掛けられたまま。自民党も「成長戦略とムダ削減の努力を行いつつ、消費税引き上げを含む税制の抜本改革を行う」と、抽象論に留まっている。第3極の新党は、「たちあがれ日本」が消費税増税を明確に掲げ、「成長やムダ撲滅が先だ、という主張は逃げの政治だ」と財源に裏打ちされた社会保障制度を強調しているが、「みんなの党」は「増税の前にやることがある」として行政改革を唱え、新党改革は「歳入歳出一体改革」、日本創新党は「改革と成長による財政再建」を唱えているだけだ。
このままだと、鳩山連立政権の9カ月に通信簿をつけることと、鳩山、小沢の辞任に伴う政局、新政権に対する漠然たるイメージ、『反自民』か『反民主』というレッテル張りや、「政界再編」という政党の合従連衡だけがスポットを浴びそうだ。各党には政策原案をさらに煮詰め、いつから、どの程度アップして、何に使うかなどの具体論を勇敢に示すことを強く求めたい。有権者の問題意識に真正面から向き合い、有権者を愚弄しないでほしい。
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