前向きに読み解く経済の裏側

2017年6月12日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

経済評論家

1981年 東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の業務に従事。2005年 銀行を退職して久留米大学へ。現職は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は一個人として行うものであるため、肩書きは「経済評論家」とする。

実質実効為替レートでは将来の為替は予測できない

 実質実効為替レートが「今はドル高が行き過ぎているから、いつかはドル安になるはず」といった予測に使えるならば、それで大儲けすることが可能かもしれません。しかし、世の中はそれほど甘いものではありません(笑)。

 まず、為替レートが貿易収支に与える影響が、以前ほど明確ではありません。たとえばアベノミクスによって1ドルが80円から120円に5割も値上がりしたにもかかわらず、輸出数量も輸入数量もほとんど変化しませんでした。これでは「今はドル高すぎるから、今に輸出が増えて輸出企業のドル売りが増えてドル安になるだろう」といった予測は立てても仕方ありません。

 もちろん、ドルが10円や1000円になれば、貿易収支への影響は絶大でしょうから、全く意味がないとは言いませんが、80円が120円になった程度では、他の要因の影響の影に隠れてしまう場合も多い、ということでしょう。

 実質実効為替レート自体の問題も数多くあります。たとえば技術進歩が織り込まれていないため、「韓国や中国に技術力が追いつかれたので、貿易収支が赤字化しやすくなった」といった要素が無視されてしまうのです。少子高齢化によって労働力不足になり、輸出産業の労働者が減少した、少子高齢化により家計貯蓄率が低下して経常収支黒字が減少した、といった要素も無視されてしまいます。

 また、実質実効為替レートが影響するとしても、せいぜい貿易・サービス収支までであって、所得収支への影響は極めて限定的ですから、経常収支を均衡させる力を考える際には、不十分でしょう。

 さらには、日米金利差を考えると、恒常的にドルの割高状態が持続すると考える方が自然でしょう。経常収支を均衡させるドル相場が成立し、実際に経常収支がゼロになったとします。そうになると、貿易等によるドルの売り買いが均衡する一方で、日本人投資家が「円をドルに替えて米国債投資を行なう」ため、ドル買い注文が売り注文を上回ることによってドル高になるのです。

 こうして考えると、「実質実効為替レートから考えて、今はドル高すぎるから、いつかはドル安になるだろう。今のうちにドルを売っておこう」と考えるのは、一見すると理屈に合っていそうですが、そうでもない、ということになりそうです。金儲けは、それほど簡単ではない、ということですね。

  
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