それでも今を生きるんだ、っていう、なんていうかこう、苦い覚悟みたいのも入ってて、それを時々お尻出しちゃうしんちゃんに言わせて子供にも泣きを取るっていうね、エンターテインメントで語っている。そこがすごいと思う。
観客に、教えてもらいました
原 もったいないですね(笑)。
『オトナ帝国』は、最初からあの形を目指してつくってたわけじゃないんですよ。なんか、どうにもならないなあと思いながら、あがいていったらあの形が見えてきて。ただやってる間に、徐々にああいう形が見えてきた。
これをこのままつくったら『クレヨンしんちゃん』じゃなくなっちゃう。でも、この方が絶対面白いって、随分悩んだんですけど、もうクビになってもいいから、それをつくろうと思ったんですよ。
で、自分としてはものすごく清々しかったんですね。でも、エラい人たちは、観てポカンとしてるし、まあそれはそうでしょうとも思った。
そしたら、意外とスタッフたちは良かったって言ってくれて、「あれっ、そうだったんだ」という気がした。公開が始まったら、映画を観た大人たちの良い反応が耳に入ってきたし、子供たちも、観ているあいだそんなに退屈している感じでもない。
クライマックスは、しんちゃんが走るシーンでしょう。今までの『クレヨンしんちゃん』のつくりだったら、「それ、どうなの?」という話なわけですよ。いつもは、おバカな戦いとか、ハラハラ、ドキドキするような、何かが壊れたり爆発するとか、そんなことをやってたんだけど、観客は単に走るだけっていう、これでも喜んでくれるんだと思ったんですよね。
だから、僕は、『オトナ帝国』によって多分みんなからそっぽを向かれると思ってたんですけど、そうじゃなかったというのが、その後の自分にとってものすごく大きい発見だった。
お客さんに教えてもらったんですね。こういうものでいいんだっていうことをね。
浜野 何かにとらわれてたわけですね、やっぱり。
原 僕らはつくり手のプロとして、「こうであるべきだ」みたいなことをいろいろ言ってるんだけど、そのときに、じつは正しくないんだなということに気がついたんです。
これもよく言ってることなんですけど、つくり手はみんな病気にかかってる。僕自身も病気にかかってる。それをお客さんに「おまえら、病気だ」って教えてもらったっていう気がしたんですよ。
いまだに病気にはかかってると思いますけどね。かかってないとつくれないとこがあるんで(笑)。でも、それは自覚していようと思った。
どうして食卓のシーンがあんなに多い
浜野 最新作『カラフル』で、『河童のクゥと夏休み』(以下、『河童』)以上に原さんが踏み込んでいると感じたのは、やたらめったら食事のシーンが出てくること。
あれ、海外の評論家が日本映画をいちばん批判する部分なんだよね(笑)。なんで日本のホームドラマはメシばかり食わせて、ドラマを止めるんだっていう。
逆に僕なんか「ああ、スゴイ」と思ったけどね。食事するという日常を、普通に描くのは。だって、現実はそうなんだから。僕ら、メシ食いながら何かやってる。親子で喧嘩してるとかさ、そういうのがいちばん多いんだけど、あえてアニメーションで、箸でメシを食わせるというのは、まずつくるのが大変だろうに、って思った。あれ、意図的にやってるよね?