2024年11月22日(金)

東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年7月29日

 なんとなくアニメできちゃったんで、アニメでつくってるというだけなんですよね。
だから、「実写でつくらないんですか?」みたいなことを聞かれても、「なにをいってるんだ、君は」みたいなことは思わない。興味がないわけじゃないんですけど、実写には自信もないですね。

浜野 『カラフル』はたまたま実写版を別の方がつくってるけど、もしそれがなかったら実写でもよかったんですか?

 その実写版というのは、僕は見ていません。

 実写でもいいか…、うーん…そうは思わなかったですけどね。もともと最初の依頼がアニメーションとしてだったし。

 内田さんの口から「アニメでも実写でもいいんだけど」て言われてたら、わかんなかったですけど、内田さんもそんなことは考えてなかったと思う。

浜野 アニメーションというのは、見るべきものをより強調できる。だから子供のメディアでもある。

 ある程度大人にならないと、画面にあふれる情報から取捨選択できないけれど、アニメーションだと、見るべきものを強調して描くことができる。

 ただ、原さんは、意図的にそこを排除する、ちょっといやらしい人なんだけど。それでもやっぱり表現できるから。自信もあるんでしょうけどね。ふつうは『ドラエもん』だって、バックは描かないとかね。被写体として目を向けてもらいたいものを強調するようになってる方が、子供は見やすい。

 だけど、原さんは意図的にバックも描いている。そこにはなにかあるんだろうと、思うけどね。

 僕は、あんまり自分で分析的に考えたりしないんですけど。『河童』のときも、今回の『カラフル』もそうなんですけど、実在の場所を物語の舞台に選んでるんですよね。実際に写真を撮ったり、その写真をもとに絵を描いたりということをしています。

 でも、それはいくらリアルに描いても現実じゃない。そこが、面白いなと思ってしまうんです。「ああ、映画のなかのあの場所はここだよね」っていう場所が間違いなく存在するんですけど、そこに行っても同じ風景ではない。

川岸を歩く真と同級生の早乙女。その背後には写真のような美しい夕暮れが広がる
©2010 森 絵都/「カラフル」製作委員会

 『カラフル』のなかではそれは絵だし、キャラクターもアニメーションの絵だし、誰かが描いて動かしている。その不思議な感覚が、僕なんかは面白いなと思ってるんですよね、今。
たとえば二子玉川だの等々力だのっていっても、それは物語のなかの場所なわけ。実際に行くと「ああ、ここだね」というのはわかるんですけど、同じ景色ではないわけです。

原作品における「切なさ」とは

浜野 あえて大変なことをしてる。描いちゃえばそれでいいはずなのに、取材までしてね。

 日常描写をリアリティをもって描くというのが原さんの1つの特徴だとしたら、もう1つ、「切なさが爆発する」というのがある。話が進むにつれ、どんどん、どんどん切なくなってくる。

 切ないっていう感情を、大事にしたいって原さんは随所で言ってます。切ないって、どんな感情だろう、というのを、この映画で見て理解してください(笑)。

真の母。フラメンコ講師との不倫を“僕”に責められ、懊悩する
©2010 森 絵都/「カラフル」製作委員会

 今回は、主におかあさんがその「切ない」役を背負ってます。

 おかあさんは自分に罪意識があるから、とにかくいちばん弱い立場で、その罪があって物語が進むところもあるんですけど、そのおかあさんをどれだけ可哀相にするかっていうのが、かなり重要だぞと思ってやってました。

浜野 でも、『河童』でも、主人公の同級生の女の子がそりゃもう可哀相だしさ、実体験として、女性になんかあるんじゃないの(笑)? なんか、出てくる女性がみんな溝口健二監督の描く女性みたいな感じで(笑)。

 ハハハ、そうですかね。

浜野 ものすごい不幸を背負ってるという。

 いや、どうせ描くんだったら、徹底的にやりたいという気持ちはやっぱりあるんで。

浜野 木下監督の『日本の悲劇』に出てくるおかあさんみたいな。

 そうですね。ああいう作品を観てるんで、生ぬるい描写は今さらやりたくないですよ。

 でも、嫌いじゃないんでしょうね、やっぱりああいうのを考えるのはね。

 おかあさんが泣くシーンとかも、けっこうゾクゾクしながら絵コンテ描いた気がする。ここで、このタイミングで真がこう言って、おかあさんが涙がこみあげてくる、「よし、よし」とか思いつつ(笑)。

 
  

(構成・谷口智彦)
*続き(第3回)はこちら

原 恵一(はら・けいいち)
アニメーション監督。
1959年群馬県生まれ。1982年シンエイ動画入社。テレビシリーズの『ドラえもん』の演出などを経て、 『クレヨンしんちゃん』の監督に、劇場監督作品は『エスパー魔美 星空のダンシングドール』『ドラミちゃん アララ少年山賊団!』などのほか、『クレヨン しんちゃん』では6作を手がける。01年『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』が話題を呼び、02年『クレヨンしんちゃん 嵐を呼 ぶアッパレ!戦国大合戦』で、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞などを受賞した。2010年8月には、最新作『カラフル』が公開予定。

映画『カラフル』
原恵一監督最新作!直木賞作家・森絵都のベストセラー小説を感動のアニメ映画化!
原作は『風に舞い上がるビニールシート』で第135回直木賞を受賞している作家、森絵都の同名小説。生きていくことをポジティブに伝えていくこの物語は、 主人公と同世代の中高生はもちろん、「かって中学生だった」大人たちも爽やかな感動の渦に巻き込んだ。そしてこの感動作は、原恵一の演出によって最高の映像作品に生まれ変わる。
全国東宝系で、8月21日(土)より待望の劇場公開。
公式サイトはhttp://colorful-movie.jp/index.html


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