イラン、カタールとの関係修復は困難に
ムハンマド新皇太子は、サウジアラビアの初代国王アブドルアジズの孫、第3世代に属する。言動も明快かつ積極的で、豊富な石油資金をバックに水面下で動くことをよしとしてきたサウジ外交を根本から変えた。サウジの直面する外交上の課題はイラン、カタール、イエメン、シリア問題だ。
ムハンマド新皇太子の誕生によって、特に断交中のイランとは関係改善どころか、悪化の一途をたどる公算が大きい。ムハンマド新皇太子は6月8日にテヘランなどで発生した過激派組織「イスラム国」(IS)のテロ事件前、「イランはサウジの聖地を奪い取ろうとしており、彼らとの対話は不可能だ」と非難。
「われわれは座してサウジ国内での戦いを待つつもりはない。イラン国内で戦いが起こるよう動く」と強硬姿勢を見せていた。テロ事件はこの発言の直後に起きた形となった。このためイラン革命防衛隊のジャフリ司令官は「サウジがテロリストにイランでテロを起こすよう依頼したという確かな情報がある」などとして、テロの背後にサウジが介在していたと非難している。
19日になって今度は、ペルシャ湾のサウジ領海でイラン革命防衛隊の船がサウジ側に拿捕され、3人が拘束される事件が発生した。これに対し、イランは3人が漁師だと反発、新たな火種が生まれている。こうした状況の中で、新皇太子の強硬方針を見ると、イランとの関係が修復に向かう可能性はなく、また両国の調停に動くような国もない。
6月に断交したばかりのカタールとの関係についても、同盟関係を強める隣国のアラブ首長国連邦(UAE)などと共同で強硬方針を続けていくだろう。新皇太子の誕生はかつての日本の“お家騒動”とよく似ているが、中東の分断と亀裂を拡大し、新たな緊張をもたらそうとしている。
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