オトナの教養 週末の一冊

2017年6月23日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――ただ、対話をしようとする意志のない人と、どう想像力を使い、対話をしていけば良いのでしょうか?

塩原:初めから対話をする意志がある人と対話することより、対話する気のない人とどう対話するかの方がはるかに難しいですよね。大学生からも、よく質問されます。

 この本では、対話をグローバリゼーションの時代における人々の共生を実現するための基本的な行動原理であるとする立場を「対話主義」と名付けてみました。それに対立する立場が、広い意味での「原理主義」です。つまり、特定の価値観などを絶対視し、対話によって自身が変容する可能性を拒絶する態度のことです。

 対話主義者と原理主義者との対話は、どうすれば可能になるのか。心情的な原理主義者、つまり自分の信心に凝り固まり、他者と対話する能力が低い人に対しては、そうした頑なな信心を持つに至った背景を徹底的に想像することが必要です。一方、相手との論争に勝つためにあえて聞く耳を持たないでいる戦略的な原理主義者に対しては、勝ち負けにこだわる相手の裏をかいて勝ち負けではない話し合いへと引き込んでいく手練手管を考える想像力が、必要です。どうしたら他者との対話が可能になるのかを考える対話的想像力には、他者へのケアと、きれいごとだけでは済まないずる賢さの、両方が必要になると思います。

――対話を実行し、社会の分断を一つひとつ元に戻していくには、どんな取り組みが考えられますか?

塩原:この本は社会学の入門書の形を借りた、私なりの時代診断の試みなので、提案とか提言の要素はあまりないのですが・・・。強いて言えば、この時代における「ゆとり」と「居場所」を回復する試みだと思います。先ほど申し上げたように、それは私たちがどのようにして自分の時間や場所をコントロールできるようになるかという問いへの応答です。

 そのためには、人と人とが時間をかけて、ひとつの場所や社会で共存していくための対話のメカニズムを、社会のいろいろな局面に埋め込んでいくことだと思います。

――具体的には?

塩原:たとえば、国政レベルでの熟議民主主義、地域社会における人のつながりづくり、企業や組織におけるファシリテーション、そして教育現場におけるアクティブ・ラーニング。すでにさまざまな場面で、いろんな人たちが取り組んでいます。スローライフやエコロジー、まちづくり・地域づくり、子ども食堂……。私の授業では、外国にルーツをもつ若者のための地域の居場所づくり活動や、定時制高校の校舎でカフェを運営し、高校生と大学生が自然な雰囲気のなかで語りあう場所をつくる試みも行っています。

 これらは、まったく違う分野の活動のように見えるかも知れません。実際、それぞれの活動に取り組んでいる人が、別の分野にも関心や理解があるとは限りません。でも私には、加速化する時代に抗して人々の時間・空間的な自律性を回復していこうという、共通した問題意識があるように思えます。

――ひとりひとりの身近な取り組みから、ということでしょうか?

塩原:人と人とのつながりは、力をもたらしてくれます。これを社会関係資本ということもあります。境界線を越えて人と人とがつながり、社会関係資本が掛け合わさっていくことで、個人の些細な行為が思わぬ波及効果をもたらすことがあるのが、グローバリゼーションが進む現代のもうひとつの側面です。いわゆる「バタフライ・エフェクト」ですね。こういう時代では、とりあえず身近なところから始めてみて、あとはなりゆきに任せてみる、というやり方も意外と有効かもしれないよ、と大学生に話すこともあります。

 最近の学生には、理想主義者だと思われることを避ける傾向があるようです。理想を語る人よりも「リアリスト」の方が優れている、と思い込みがちなんですね。リアルに現実を見ることは確かに大切ですが、それと体制(大勢)順応は区別しないといけない。体制(大勢)順応と区別されるとき、リアルに現実を見るというのは、目指すべき理想のあり方に一歩でも近づくために、とりあえずできることは何かを考える「しぶとさ」に他ならない。理想を持って、希望を持って、とりあえずやってみる、というのが、グローバル社会でリアルに生きることなのではないかな、と思います。これは米国の社会学の巨人イマニュエル・ウォーラスティンが、トランプ大統領が当選した当時にインタビューで語っていたことでもあります。

――出版後、同業者の方も含め、どんな反応がありましたか?

塩原:私はこの本を書くとき、大学の教師として、いま一番学生と語りあわなければならないことは何なのか、ということを考えていました。お世辞かもしれませんが、何人かの同僚や他大学の同業者から、自分がいま授業で学生に教えたいと思っていることにとって参考になった、という感想をいただいています。それは、私にとってはとても心強いことです。同じような問題意識を持っている大学教員は、決して少なくはないのだな、と。

 大学生向けのテキストの体裁をとっているので、一般向けとはいえないと思いますが、専門的な概念もなるべくわかりやすく解説したつもりです。社会学の概念を用いて現代社会をどんなふうに捉え直すことができるのか、興味があれば手に取っていただければ嬉しいです。いまの世の中、なんか見通しが悪いな、とモヤモヤしている人には、参考にしていただけるかもしれません。

  
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