2024年11月22日(金)

中国メディアは何を報じているか

2017年7月6日

包囲網の中でも強気だった安邦

 「財新メディアはかつて我が社に何度も広告のスポンサーとなるよう要求し、同社の公印のみ押された契約書を渡してきたものの、我が社がその要求を満足させるに至らなかったために、その後、財新メディア旗下の『財新週刊』や財新ネットなどの媒体で何度も呉会長に人格攻撃を行い、『3度結婚した』という報道をねつ造し、『夫婦関係が終わっていることをすでに確認している』などの妖言をでっち上げている。同時に我が社の合法的な経営活動を中傷し、泥を塗り、世論を誤った方向に導き、市場をかき回し、我が社の権益と呉会長の名誉権を著しく侵犯している。中華人民共和国の関係する法律に基づき、我が社は財新メディアと胡舒立氏を提訴し、我が社と呉会長の合法的な権益を保護することを決定した」

 これに対しては、翌5月1日に財新メディアの法律部が以下の反論を行った。「(財新の)経営と編集は完全に分離しており、ニュースの独立性を確保するために、商業利益からの妨害を受けない。安邦の声明の誹謗行為に対し、我が社は強く非難し、追訴する権利についても保留するものとする」

 5日には安邦傘下の「安邦人寿」が中国保険監督管理委員会から保険商品の違反を理由に、3カ月間の新商品の申告を禁じられた。財新はじめメディアにも叩かれ、憂いの多い時期であったに違いないのだが、それでも5月8日には上海に拠点を置く「澎湃新聞」が安邦がドイツの銀行の買収にかかっていると伝えた。

 中国では資本の海外流出が続き、政府はキャピタルフライト(資産逃避)に対する規制を強めている。これを背景に、安邦を筆頭にした中国企業の海外での「buy, buy, buy(買買買)」に否定的な論調が多くなる中でも、安邦はまだ強気だったのだろう。

安邦つぶしは上海閥への攻撃か

 6月2日、英フィナンシャル・タイムズが呉会長が出国を禁じられており、これがいつまで続くかは不明と報道した。これに対し、「安邦グループのスポークスマンは否定し、報道はあくまで伝聞に基づくもので正確でないとしている」と香港に拠点を置く経済ニュースメディア「信報」が伝えた。

 それから間もなく、呉会長が当局に拘束されたというニュースが世界を駆け巡ることになる。安邦は14日、「呉会長は個人的な理由で職務が遂行できなくなり、すでにグループの関連する指導層が職務を代行しており、グループの経営は正常に行われている」との声明を発表し、多数のメディアに転載された

 財新メディアと安邦の戦いは、一方のトップのあっけない退場で勝負がついた。時代の寵児は一気に過去の人となり、安邦についてのニュースはその後、株価の下落を報じるものが大半を占めている。財新を率いる胡氏は汚職追及などの報道で名をあげ、「中国で最も危険な女性」と評されるが、今回の騒動はさらにその名を高めたと言えるだろう。

 今回の騒動は、ご多分に漏れず、政治闘争の一面も持つ。安邦は、上海汽車工業集団と中国石油化工業集団から高い比率の出資を受けている。前者では江沢民の息子が重役を務め、後者は曽慶紅と周永康の牙城とされてきた。いずれも江沢民をトップとする上海閥に連なる人物だ。

 どこを叩いてもホコリの出る中国で、上海閥の有力者とつながりのある安邦が攻撃されたことの意味は大きい。まして、ネガティブキャンペーンを張った財新の背後には、王岐山・党中央規律検査委員会書記がいるとされるのだからなおさらだ。「信報」の「安邦はどこにいくのか」と題した6月15日の記事に載った以下の論評が核心をついている。

 「こういう手法を使って資産を海外に回避させる手法は、いったい安邦独自のものなのか。答えは『そうではない』のはずだ。ちょうど大陸で指導層が交代する時期に、果たしてもっと多くの出来事や人物が起爆させられるのかどうか。こうご期待、だ」
 

  
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