世界中から観光客を集める雲南省。その中でも風光明媚で外国人も過ごしやすい街として人気なのが大理だ。そんな大理の景観を語るうえで欠かせないのが洱海(アルハイ、じかい)。湖面の海抜が1972メートルと高原に位置し、四方を山に囲まれ、南北に40キロ、東西8キロと中国で7番目に大きい淡水湖だ。満々と水をたたえる湖面に周囲の山が映り込む絶景は、旅人を虜にする。
ところが近年、この洱海でアオコが大発生している。流域の生活排水や農業用水などが流れ込んだ結果、富栄養化が進み、湖の自浄能力が働かないレベルまで水質汚濁が進んでしまったのだ。これに対し、雲南省大理白族自治州は周囲の旅館や飲食店に一律に自主的に営業を停止するよう要請し、農業・漁業活動を停止させるという強硬策に出た。その対象の広さと厳格さは空前のレベルで、観光をはじめとする現地の産業への影響は甚大だ。人々の権利意識も高まっている中での強権発動に、メディアの報道にも行政のやり方への批判がみられる。
習主席の鶴の一声
この極端な環境保護政策は2015年1月に習近平国家主席が雲南省を視察し「洱海を絶対に保護しなければならない」と指示したことに端を発している。16年11月には雲南省中国共産党委員会の書記が、保護のための緊急措置を取るよう指示した。17年1月に大理白族自治州は環境保護のための「七大行動」を発表。それに基づき3月31日に客桟と呼ばれる簡易旅館と飲食店についての通告を発表。4月10日から洱海の周辺の数千軒が営業停止となった。
基準をクリアする汚水処理施設を建設すれば営業再開できるが、多くの店舗や旅館は条件を満たさず、再開がいつになるかは見通せない状況だ。5月中旬時点で2千軒強が営業を停止、洱海周辺で建設途中だった建物5千軒弱が工事を中断、違法建築600軒強が撤去されたと報じられている。観光客でごった返していた街にかつてのにぎやかさはなく、下水処理のために道路を掘り返し配管を埋設する作業が至る所で進められている。
2016年には4千万人近くの観光客が訪れたとされる一大観光地での大規模な営業停止で、観光への影響が注目される一方、ほかの分野でも相当な影響が出ている。洱海での漁業は禁止。洱海の保護の核心地域の農民はこれまで収入の柱にしていた乳牛の飼育とネギ栽培を禁じられた。水の使用を制限する名目で、井戸もコンクリートでふさがれ、水道水を使わなければならなくなっている。