国際宇宙ステーションの訓練用ソフトを開発
ロシアが米国と並ぶ宇宙開発大国であることはよく知られている。ロシアの宇宙飛行士全員が受ける訓練プログラムのソフトが、シベリアの森の中で開発されていた。ノボシビルスク市内にある映像・画像関連システム開発会社「ソフトラボNSK」を訪ねると、同社がロシア連邦宇宙局(ロスコスモス)に納入しているというシミュレーションソフトのデモを見せてくれた。
大型モニターに映し出された宇宙船らしき機械が、じわじわとこちらに寄ってくる。国際宇宙ステーション(ISS)内の宇宙飛行士が、地球から来た貨物船をISSにドッキングさせる際の操作を学ぶためのソフトだ。途中、急に画像にノイズが入ったり、太陽光で何も見えなくなったりする。担当するバーチャルリアリティー(VR)部のバルトシュ・ワシリー部長によると、これは本番で起こりうるトラブルを想定しているのだという。
ISSの貨物船接続口は、米国仕様とロシア仕様に分かれている。同社のソフトはロシア側の接続方法をシミュレーションする。このソフトは実際にモスクワ郊外のガガーリン宇宙飛行士訓練センターで使われており、訓練生は数十種類のプログラムの一つとして、何時間かをこのソフトでの学習に充てる。多くの日本人宇宙飛行士もロシアで訓練を受けているが、まさにこのソフトでシミュレーションしたのだろうか。そう言うとバルトシュ部長は「それは間違いありません。これは全員が受けなければならないカリキュラムですから」と答えた。
VR部ではこのほか、シベリアの石炭業界向けに開発した炭鉱での災害避難シミュレーションソフト、また地元州政府に納入したヘリコプター操縦の訓練ソフト、ほかにも国営ロシア鉄道グループで使う貨車連結シミュレーションなど、大手顧客との取引実績を数多く持つ。会社全体ではこのほかシステムプログラミング、CAD、仮想現実、テレビ放送管理システムなど様々な分野で仕事を受けている。
大手顧客との仕事には、同社のルーツが関係しているようだ。同社の前身は、ソ連時代からある国営学術機関「ロシア科学アカデミー」の付属研究機関である。もともと公的な研究機関として大きな国営企業から発注を受けていたのが、ソ連末期の1991年に一企業として独立したのだという。今のイリーナ・トラビナ社長は地元ノボシビルスク国立大学の卒業生で、独立時のメンバーの一人だ。現在の社員数は約80。現場で働くエンジニアの多くが20代という。
間違いなく地元IT業界の有力企業だ。しかしオフィスは、技術企業が集まるロシア科学アカデミー自動化研究所ビルの何室かを借りているだけで、建物の外部には看板もない。会社を立派に見せようとするような派手さはどこにも感じられなかった。