インフレ率2%達成には時間が必要
日銀は、20日発表の「展望レポート」の中で、インフレ率の予想(政策委員の平均)を公表していますが、それによれば、2019年度頃にはインフレ率が2%の目標に達することになっています。
しかし、民間エコノミストの予想は、それとは大きく異なっています。ESPフォーキャスト(著名なエコノミスト42名・機関による予測の集計)によれば、2018年度のインフレ率は0.9%程度、2019年度のインフレ率も、消費税増税の影響を除くと1%程度にとどまるというのが平均となっているのです。
日銀の審議委員も民間エコノミストも、優秀な人々ですから、ここまで大きく見解が異なるのは不思議な気がします。もしかすると、日銀側にメンツがあり、正直に回答していないのかもしれませんね。そうだとすると、当分の間、インフレ率2%の目標は達成されないかもしれません。
ちなみに筆者は少数説で、ヤマト運輸の値上げなどを見ていると、インフレが来そうな気がしていますので、日銀と民間の中間あたりをイメージしています。氷を熱していくと、ある時突然温度が上がり始めます。そんな可能性も感じる今日この頃です。そのあたりについては、拙稿『ついにインフレ時代の到来か? 地震や国債暴落などのリスクも…』をご覧下さい。
しかし、仮に物価が上がらないとして、何か問題でしょうか? 物価が下落しているデフレであれば、問題でしょうが、すでにデフレは脱却しており、物価は安定しています。「インフレも失業も無い、理想的な経済状況」が続いているのです。素晴らしいことだと思いませんか?
2%を目指すのは、インフレ率は「ピンポイントの操作が困難だから」
日銀は物価の番人として、インフレもデフレもない経済を目指しています。しかし、金融政策で物価を誘導することは容易ではありません。金融を緩和すると何時、どれくらい景気が良くなり、それによって何時、どれくらい物価が上がるのか、予想するのは極めて難しいことなのです。従って、ピンポイントに「物価上昇率をゼロにしよう」と考えるのは非現実的です。そこで、「物価上昇率の目標を定め、目標プラスマイナス2%に収まればマズマズ」といった目標の定め方をします。
ここで重要なことは、金融政策にとって、インフレを止めるよりもデフレを止める方が遥かに難しい、ということです。インフレ率が10%の時、これをゼロにするためには、金利を20%にすれば良いのです。借金をして家や工場を建てる人が激減し、景気が悪化し、物価は安定するでしょう。
しかし、インフレ率がマイナス10%の時、これをゼロにするのは大変です。来年まで待てば値段が10%下がると思えば、人々は買い控えをするでしょうから、物が売れず、景気が悪化して一層物価が下がるでしょう。
これを「名目金利はマイナスにできないから、実質金利が高止まりして景気を抑制してしまう」などと表現する場合もあります。実質金利とは、金利マイナス物価上昇率のことです。金利が10%でも物価が20%上がっている国では、人々が借金をして物を買い急ぐので、金融引き締めではなく金融緩和になっている、という考え方です。実質金利がマイナス10%だから、というわけですね。
そこで、インフレ目標を0%に定めると、困ったことになりかねません。インフレ率がプラス2%になってしまった場合には、ゼロに引き下げることは容易ですが、マイナス2%になってしまった場合、これをゼロに引き上げるのは容易ではないのです。
それならば、インフレ率目標を2%に設定しておけば良いでしょう。4%になってしまっても引き下げるのは簡単です。0%になってしまっても、特に困りませんし、2%に引き上げることもそれほど難しくはありません。先進各国の中央銀行の多くがインフレ率目標を2%としているのは、こうした理由からなのです。