前向きに読み解く経済の裏側

2017年7月24日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

経済評論家

1981年 東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の業務に従事。2005年 銀行を退職して久留米大学へ。現職は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は一個人として行うものであるため、肩書きは「経済評論家」とする。

コストとベネフィットの比較が必要

 物事を決める時は、コストとベネフィットを比較する必要があります。量的緩和等をやめて単なるゼロ金利政策に戻した場合(もちろん、市場への影響を考えながら時間をかけて少しずつ、ですが)、量的緩和を続けた場合と比べて、どの程度インフレ率に差が出るでしょうか? その認識の差が本稿の議論に決定的に重要でしょう。

 筆者は、大したことはないと考えています。量的緩和等は「偽薬効果」で景気を回復させただけであり、これを中止しても景気が悪化したり物価が下がったりすることはないだろう、と考えているからです。偽薬効果だと考える理由については、『アベノミクスの七不思議を考えながら、今後を占ってみた』をご参照ください。

 重要な点は、日本経済が既にデフレを脱しているということです。消費者物価指数の上がり方が日銀の目標に達していないだけで、下がっているわけではないのです。つまり、「金融政策による物価のコントロールが難しいから、ゼロより2%を目指す」「次回景気後退に備えたのりしろを持つ」といったことさえ考えなければ、まさに理想的な「失業もインフレもない経済」なわけです。

 これを、大きなコストを払ってまで2%インフレに持っていくインセンティブは小さいと思います。次回の景気後退ですが、国内要因で景気が悪化するとは考え難い状況ですから(政府日銀が景気を冷やすことは考えられず、バブル崩壊による景気後退も考え難いでしょう)、あるとしたら海外発ですが、海外経済にも特段のリスクは見当たりません。

 一方で、国内の労働力不足は一層深刻化しつつあり、非正規労働者の賃金は上昇しています。中小企業の賃金も、上昇し始めているようです。こうした中、物価が下落していく可能性は大きくないと考えて良いでしょう。

 景気が悪化して物価が下落する可能性が大きくないのに、比較的大きなコストをかけて「景気が後退した時への備え」をするのでは、コストとベネフィットの釣り合いが取れないでしょう。インフルエンザが流行する見込みが大きくないのに、通常より高い費用を支払って予防注射を接種するようなものですから。

 日銀としては、「メンツ」があるので2%インフレの旗を下ろせない、と考えているかもしれませんが、筆者としては、総裁が交代したタイミングで政策の転換があっても構わないと考えています。

 「現在の日本は、インフレも失業もない、望ましい状況にあります。日銀はこれまでインフレ率2%を目標に量的緩和等を行なって来ましたが、それは物価を上昇させて景気を回復させることが主目的でありました。物価が上がらなくても、景気が回復したのですから、主目的が達せられた以上、金融政策の正常化に向けた第一歩を踏み出すことが適当と考えるに至りました」と新総裁が発表したら、筆者は大いに納得すると思います。

 金融市場関係者の多くは、これを「テールリスクとして扱う必要もないほど起こり得ないことだ」と思っているでしょうが、皆が起こらないと思っていることが起きかねないのがテールリスクですから(笑)。

  
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