2024年11月22日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2017年7月25日

本当の「妨害者」は上院民主党

 共謀に加えてトランプ大統領は、ロシアとの共謀疑惑を巡るFBIの捜査に対して司法妨害をしたというイメージを打ち消そうと、オバマ前政権及び民主党を標的にしています。以下で例を挙げてみましょう(図表2)。

 第1に、トランプ大統領はオバマ前政権のロレッタ・リンチ司法長官のある発言を批判しています。クリントン元国務長官の私的メール問題の捜査についての発言です。上院情報特別委員会の公聴会でコミーFBI長官(当時)は、リンチ氏が「捜査」ではなく「案件」と呼ぶように要求したと証言をしたのです。同氏はFBIが捜査していた私的メール問題の重要度のランクを下げようとしたのでしょう。トランプ大統領はこのリンチ氏の発言を取り上げ、司法妨害をしたのは同氏だと主張しています。

 第2に、トランプ大統領は司法妨害の疑いに関する話題をすり替えるために、ツイッターを駆使して上院民主党こそが妨害者であると訴えています。バラク・オバマ前大統領の医療保険制度改革法(通称オバマケア)の廃案及び代替法案の成立を「妨害」しているのは上院民主党だと投稿しています。同大統領のこの主張は正確ではありません。代替法案に関して上院共和党内の保守派と中道派の間に亀裂が生じたために、同法案の成立を断念せざるを得なかったのです。

 第3に、G20から帰国すると政治任用が遅れている原因も上院民主党の「妨害」にした投稿をツイッターにしています。トランプ大統領によれば、指名した197名の内上院で承認されたのは48名です。同大統領は、高官人事の遅れを利用してここでも上院民主党が妨害者であるという意識を支持者に植えつけようとしているのです。

フェイク効果が低下する日は来るのか?

 トランプ大統領は、環太平洋経済連携協定(TPP)及び地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を発表しました。ところが、同大統領はメキシコとの国境の壁建設、オバマ前大統領のオバマケア廃止並びに代替法案の成立といった最大公約を果たしていません。一方、外交・安全保障においては、中国が本気で北朝鮮に対して最大限の圧力をかけておらず、核・ミサイル開発の問題解決の糸口は一向に見えません。

 このような状況でトランプ大統領は、メディアを益々敵視しフェイク効果を最大限に発揮することに時間とエネルギーを注いでいます。フェイク効果はいつまで続くのでしょうか。

 鍵を握るのは、ロバート・モラー特別検察官の捜査結果及びそれに対する支持者の反応です。仮にモラー特別検察官がトランプ陣営とロシア政府との共謀に関する確たる証拠をつかんだ場合、支持者がどのようにそれを捉えるのかです。証拠までもフェイクとみなすのか、それとも事実と受け止めるのかです。彼らの認識が「メディアはフェイクである」から「トランプこそがフェイクであった」に変われば、間違いなくフェイク効果は低下します。その時、トランプ大統領は最大の試練を迎えるでしょう。

  
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