2024年2月21日(水)

ACADEMIC ANIMAL 知的探求者たち

2010年8月21日

●iPadやキンドルなど、新しいメディアが普及したら、書字方向はどうなるんでしょうか。

iPadの登場で日本語にはどんな変化が起きるのだろうか。

——プライベートでも横書きが増え、書くという点では横書きばかりになったといっていい。問題は読むとき。娯楽のために読むものが縦書きで残るかどうか。

 いままでは、機械の機能に人間が合わせてきたという面がありました。ですが、いまでは機械の機能を人間の好みに合わせられるようになってきた。もしも、人間は縦書きのほうが好きだということになれば、機械のほうがそれに合わせられる時代です。そっちに進まないとも言えませんね。実際、右横書きができるソフトウェアを作っている人なんかもいるらしいですし。

 iPadは本には向いていますが、新聞のような混載メディアには、まだ小さいと思います。もっと大きくないと一覧性が十分に発揮できない。最近、折りたたみができるディスプレイがあるらしいですが、そういう機器には可能性を感じます。新聞のあの高い一覧性を再現できないともったいない。我々の体に備わっている、ぱっと一覧して瞬時に捉えられる視覚の力を十分使わないのはもったいない気がします。

 一方、書くときについては、縦書きの先行きは明るくはないと思いますが、なくなるとは思いません。デザイン上、これだけの自由度がある状況をみすみす手放すのはもったいない。縦書きと横書きを自由に使えるのは日本語にとって一大資源です。これだけの資源を無駄にすることはない。

●たとえば西洋では書字方向なんていう問題意識はないんでしょうか。

——古代文字をやっている人には多少あるのかもしれない。エジプトのヒエログラフからいかに現代のアルファベットができたか、というような研究はあります。ヒエログラフは縦書きも横書きもできたし、行移りもどちらでもいけたんですよ。でも、書字方向が文字を読む行動についてどれだけ重要なのかは、西洋では意識されたことがないはずです。

 日本語学研究でこれまで日本発の一般理論がなかったのは残念なことです。みんな西洋の借り物だった。でも、文字の研究だったらそれができるんじゃないか、という期待が私にはあります。これほど複雑な文字システムを使っている言語はないんですから。英語のアルファベットだけ見ていたのでは考えもつかないような問題がいっぱいあります。せっかくそんな環境にいるんですから、日本発の理論を意識してやっていくべきだと思っています。それを私がやれるとは限りませんけどね。

屋名池 誠〔やないけ・まこと〕
慶應義塾大学文学部教授。1957年生まれ。85年に東京大学大学院博士課程中退。
著書に『横書き登場』(岩波書店)など。

◆WEDGE2010年9月号より

 

 

 

 
 

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