2024年12月27日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2017年8月20日

青年篤志家の中国論

 本編第2回で紹介した青年篤志家サンジーンとは彼のりんご農園の休憩所で雨宿りをしながら数時間おしゃべりした。急速に発展するインドにおける知識人の生の声を聴けて楽しかった。りんご農園経営からインド経済の発展さらにはインドを巡る国際情勢へと話題は尽きなかった。
そんななかで彼の中国論は格別興味深いものであった。

中印国境付近の断崖絶壁を切り拓いた軍用道路はローカルバスの定期ルート

 彼の見解を整理して以下引用したい:

 〇米国もロシアもEUも中国との経済的相互依存度が高く中国の覇権主義的行動に対して現実的には宥和的政策しか取れない。

 〇インドは中国への経済依存度は比較的低い。インドは必要な工業製品を国産しているので安価な中国製品は浸透しない。

 〇インドは多様な宗教・民族を擁する世界最大の民主主義国家。漢民族による少数民族支配を進める共産党独裁中国とはイデオロギー的に相容れない。

 〇チベットは元来強大な王国であった。事実インドのヒマーチャル・プラデーシュ州もインド独立以前はチベット王の代理が支配する地域であった。史実を検証すればチベットは歴史的に中国領ではない。インドは共産中国の覇権主義を決して容認しない。

 〇インドは中国に対抗できる軍事力を保持している。特に中国との国境紛争地帯の山岳部の戦闘では人民解放軍を圧倒できる。さらに対中国向けに開発された核戦力を有する。

 〇今後中国は急速に人口構成が高齢化する。他方でインドは若年層人口が大きく今後も経済成長が持続する。今後十数年で中国経済にキャッチアップする。

 〇21世紀において覇権国家中国に対峙できるのはインドである。インドは米国・ロシア・日本などと連携して中国を牽制しつつ地域の安定と平和を維持する役割を果たす。

スピティー渓谷から望む中国国境のヒマラヤ山脈

インドの独自外交

 5月に北京で開催された習近平指導部の巨大構想である『一帯一路』国際会議にプーチン、エルドアンはじめ30カ国政府首脳、国連事務総長、世銀総裁、IMF専務理事が出席した。北京五輪以来の共産党指導部の晴れ舞台だった。

ダライラマ14世が講話をしたティクセー・ゴンパ(チベット仏教寺院)

 唯一インドはこの国際会議にカシミール地方が“中パ経済回廊”として開発対象地域に入っているという理由で欠席した。

 私は青年篤志家サンジーンの中国論を思い出した。インド政府には彼の見解と共通するような長期的対中国戦略があるのだろうと推測した。

⇒第4回に続く

  
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