2022年9月28日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年8月18日

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 トランプの対外政策の多くが気まぐれ的で、予測不可能なものですが、その中では、対中国政策は比較的に米国の利にかなった現実的な手法を用いているという、オースリンによる積極的評価です。

 オースリンによれば、トランプのアプローチは物事を駆け引きで処理しようとする取引主義的(Transactional)なものですが、中国の銀行や個人に対する制裁措置、南シナ海の航行の自由作戦などは、これまでの米の対中政策からの決別の意味を持っている、といいます。

 確かに、トランプの対中政策の変容ぶりは、あとからの意味付けを見れば、比較的論理的に説明できるものが少なくありません。また、オバマ政権が「強い表現を用いながら、行動しなかった」のに比べ、トランプ政権は行動する構えであることも事実でしょう。しかし、「トランプの対中行動は、気まぐれでもナイーブでもない」と断言するのは、時期尚早でしょう。

 トランプの対中政策のなかで注目されたのは、まず、同氏の大統領当選を祝う蔡英文・台湾総統との電話会談でした。台湾では、蔡英文政権の快挙と報じられました。しかし、その後、蔡が外国通信社との会見で「米台間には外交関係がないが、今後は電話会談による話し合いが可能になるかもしれない」と述べたのに対し、トランプは習近平との会談を終えたあとでもあり、「中国は北朝鮮問題で努力している。…中国を困らせたくない」との趣旨のツイッターを流し、台湾側を困惑させました。その後、台湾人の多くが、台湾は米中間の「駆け引きの駒」に使われるのではないか、との警戒感をもつようになった経緯があります。

 「一つの中国」という概念については、トランプは、就任前には「これに縛られたくない」と公言していました。結局、その後のトランプの態度の変容は、「一つの中国」についての米国の従来の立場に戻っただけです。ただ、この従来の立場は、「一つの中国」が米中の間で同床異夢の上に成り立っていることを世界に浮き彫りにした、という効果をもたらしました。

 6月には、中華民国(台湾)と永年の国交を有していたパナマが、急きょ台湾から中国へと国交を切り替えました。その時期は、トランプが北朝鮮問題への中国の協力に期待するとの発言を行った直後のことです。米国の対中態度の変更が直ちに台湾の対外関係に混乱をもたらしたことは銘記されるべきです。

 目下、米国議会において、米国の艦船が台湾の港湾に寄港することが出来るようにするか否かをめぐって、国防権限法案に関する議論が行われており、トランプがこれにいかに対応するかによって、トランプの評価は大きく左右されることになるでしょう。

 ノーベル平和賞受賞者・劉暁波の死去については、米国政府としてこれまで見るべき論評を行っていません。トランプが、これに代表されるような基本的価値の問題に対し、いかなる対応をとるのかも注目点の一つです。

 トランプの中国への態度の変容は、THAAD(終末高高度地域ミサイル防衛)配備問題を含む、韓国の文政権の対中傾斜にも影響を与えることとなるでしょう。

  
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