米スタンフォード大学フーバー研究所のオースリン研究員が、7月12日付けウォール・ストリート・ジャーナル紙掲載の論説において、トランプの対中交渉は、気まぐれでもナイーブでもなく、中国は米中間の取引がならなかった場合の結果を考えなければならなくなったとして、トランプの「取引主義的」な対中対応を評価しています。要旨は次の通りです。
就任わずか6か月でトランプ大統領は、米国の中国政策を書き換えた。批判者には気まぐれに見える戦略であるが、トランプの信条に一致した論理を持っている。トランプは、中国との取引を追求したが、取引できないと結論付け、米国の国益に最も適うように行動している。
トランプのアプローチは取引主義的だが、殆どの歴代米大統領の対中配慮を考えれば、驚くほど現実的だ。それは、米中を衝突に向かわせる可能性があるので、明らかにリスクもある。
6月、ホワイトハウスは中国に3つの痛手を与えた。第一に、中国の銀行一行と二人の個人に、北朝鮮の金融取引を幇助したとして、制裁を科した。第二に、中国を最悪の人身売買国に分類した。第三に、台湾に対する14億ドルの武器売却を発表した。香港での更なる自由の要求や、南シナ海のスプラトリー諸島近海での航行の自由作戦も実施した。これら全てを、香港返還20周年を習近平が祝おうとしている時に行なった。
これらが相俟って両国の過去20年間の外交的エンゲージメントからの決別となっている。これは、トランプ政権の側の永続的な方向転換なのか、より協力的になり海外での振る舞いを改めよとの単なる中国への警告なのか?
トランプの行動は、外交的洗練はないにせよ、気まぐれでもナイーブでもない。トランプの関心は常に「ボトムライン」にあり、ニクソンの1972年の訪中以来の米中関係に溢れ返っている外交的繊細さは、トランプにすれば、進展がある場合のみ有用なのだ。
6月の行動は、トランプの取引主義的アプローチ、そして、取引が失敗した場合に直面し得る潜在的結果が本物であることを知らしめた。さらに、一つ一つの行動が、戦略的問題(台湾)であれ、戦術的問題(北朝鮮)であれ、より大きな米国の目的に役立っている。中国の指導者は、米国からの行動を伴わない強い言葉に長年慣れてきた。今や、彼らはトランプ政権がどこまで踏み込むのか考慮しなければならなくなった。
中国に公然と呼びかけることで、トランプは中国のグローバルな指導者あるいは安定への貢献者とのイメージを削り取ろうとしている。中国は既に、南シナ海の中国による軍事化へのマティス国防長官の批判に狼狽し、トランプ政権の行動、特に台湾への武器売却に反撃している。
重要な党大会を秋に控え、習は米国の積極的なアジア政策と戦うことができない、あるいは戦う用意がない、と見られたがらないだろう。米国の同盟国である韓国などへの経済的・外交的圧力を増すなど、トランプの最近の動きを牽制する方策を探すだろう。あるいは、習は、南シナ海で米海軍に挑戦することで名声を得ようとするかもしれない。
トランプは、彼が「取引形成(deal-making)」と呼ぶところのものの意味を明確にした。中国は(北朝鮮問題で)助けると言い、行動ではそうしなかった。それは、トランプにとり、米中を潜在的な衝突のコースに向かわせるのに十分なことである。トランプはブラフをかけているだけかもしれないし、本気なのかもしれない。いずれにせよ、米大統領によるリアリズムの明確な実行は、世界で最も重要な関係を作り替える可能性を秘めている。
出典:Michael Auslin,‘Trump Gives Beijing a Lesson in the Art of the Deal’(Wall Street Journal, July 12, 2017)
https://www.wsj.com/articles/trump-gives-beijing-a-lesson-in-the-art-of-the-deal-1499899021