ソニーらしさとは一体何なのか?
コンスーマーエレクトロニクスの再生は、ソニーがオペレーショナル・エクセレンスの会社に変身したことによって達成されました。オペレーショナル・エクセレンスとは、研究開発、企画、生産、サプライチェーンなどの企業を構成するあらゆる業務の高度(エクセレント)な遂行能力を意味します。
オペレーショナル・エクセレンスは高効率、高生産性を追求し、現場においても徹底的に無駄とリスクの排除を行うので、イノベーションとの共存が非常に困難になります。オペレーショナル・エクセレンスは、新しい事業を創造するための試行錯誤を伴うイノベーションの取り組みを「無駄とリスク」として排除しようとします。
コンスーマーエレクトロニクスの再生を果たしたソニーが、このジレンマを克服して次の成長を目指してイノベーションに取り組むのか、M&Aなどによって多角化、コングロマリット化戦略を採るのかは、二者択一の経営戦略になるはずです。しかし、ソニーはオペレーショナル・エクセレンスの中でイノベーションに取り組むためのSAP(ソニー・シード・アクセラレーション・プログラム)を、2014年4月に社長直轄のプロジェクトとしてスタートしました。
経営方針説明会で平井社長は、「新規事業創出プログラムSAPはプログラム開始以降、3年間で10を超える新事業を創出しました」と、その成果を報告しました。しかし、『子どもたちの創意工夫で大きく広がるおもちゃ』『三日坊主を防止するスマホのアプリケ—ション』『欲しいボタンをまとめて複数の機器を手軽に操作できるリモコン』『パーソナルアロマディフューザー』『電子マネー機能を搭載した腕時計用レザーバンド』など、SAPから生まれたという「商品」はいくつか思いつきますが、まだ事業セグメントの柱となるようなものは見当たりません。
ソニーの採用情報のホームページに、「Sony's DNA」というタイトルで次のような記述があります。
ソニーらしさとは一体何なのか?
1946年の設立以来、ソニーは人々のライフスタイルを変えるイノベイティブな商品を生み出し続けてきました。そこには、世界を相手に、まだないものをつくりあげるというチャレンジ精神、人々に喜びや感動を提供したいという強い意志がありました。 これは、60年以上経った今もなお受け継がれているソニーのDNAともいえます。
SAPは、イノベーションという絶滅危惧種のDNAを培養するための、オペレーショナル・エクセレンスから隔離された部屋のような印象を受けます。しかし「人々のライフスタイルを変えるイノベーティブな商品」は、コンスーマーエレクトロニクスの事業セグメントにこそ求められています。その成長のためには、スマートフォンやカメラや音楽プレイヤーやテレビなどを置き換え、自らディスラプション(成長のための破壊)を起こすようなイノベーティブな商品が必要です。しかし、それを隔離された部屋で行おうとすれば、必ず社内に不協和音が生まれます。
平井社長はSAPについて、「社内に常に新しいことに取り組む風土を植え付けるとともに、事業を経営するマインドとスキルを持った若手社員の育成にもつながっています」と話しています。SAPで培養したイノベーションのDNAを、コンスーマーエレクトロニクスの既存の事業セグメントに植え戻して広げることが、ソニーらしさの復活に必要なことだと思います。
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