2024年4月20日(土)

サムライ弁護士の一刀両断

2017年8月24日

「金商法違反でないからセーフ」とはいかない

 それでは、VAについて、ことさらに値段を吊り上げてから売り抜けるようなことをしても、何の問題もないといえるのでしょうか。もちろん、そんなことはないでしょう。

 金融商品取引法の適用を受けない場合でも、「不当な手段で値段を吊り上げて売却する」という行為が民法上の不法行為にあたり損害賠償の対象となる場合や、公序良俗に反するとして無効となる場合が考えられます。「金融商品取引法に反しないからセーフ」というわけではありません。

 また、VALUの運営側が、不当取引が行われることを知っていたり、不正を予想できたのに適切な措置を取らなかったのであれば、運営側も民事責任に問われる可能性があります。

 もっとも、この場合には何をもって「不当な手段」「公序良俗に反する」といえるのかという問題が出てきます。そのため、違法行為が明確に定義されている金融商品取引法と比べ、判断に難しい場面が多いと考えられます。

 また、「後で暴落することを隠して値段を吊り上げる」という行為は、騙した相手から直接代金や出資金の支払いを受けたような場合でない限り、詐欺罪などの刑法上の犯罪の適用も難しい面があります。

 そうすると、実態としてVAが投資商品として取引されているのであれば、民法や刑法といった一般的な法律ではユーザーの保護に不十分であり、やはり金融商品取引法などの特別法による取引ルールの適用が求められるということになりそうです。

高度な規律が求められるVALU運営

 今回のケースは、VAという、金融商品取引法が現時点では想定していなかった、新しい金融商品類似のサービスについて起こった問題だといえます。

 VAが「相場変動の影響を受けて価値が上下するものを売買する」という投資商品に似た性質を持っている以上、ユーザーが安心して取引することができる仕組みを作ることは必要でしょう。

 今後、VAの取引市場が規模を拡大してゆき、あるいはVALU類似のサービスが登場するようになった場合には、いずれは金融商品取引法などの法律によって取引ルールが定められることになるものと推測されます。

 ただし、法改正までの間は法律によるルールは適用されません。

 これは「安心して取引をすることができることが法律上保障されていない」ということでもあります。法律の規制がないからといって、不当な取引が横行するようであれば、ユーザーからの信頼も得られないでしょう。

 今回の騒動は、取引ルールや取引保護のシステムが未整備であったことから、ユーザーの利益を損ないかねない取引が行われるリスクが顕在化した形となりました。

 VALUの運営サイドとしては、今後サービスを拡大してゆく過程でユーザーからの信頼を獲得するためには、自分自身でユーザー保護のための明確なルールを作り、それをシステムに反映させて厳格に運営するという、高度な自己規律の仕組みをつくる必要があると思われます。

  
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