フランケンはこうした社会問題を改善しようと努力を続けた。しかし、オバマ政権のもと、共和党は徹底的に何もしない戦略を続けたと批判する。そうした共和党の無責任なやり方が一般国民の政治に対する不信感を増幅し、トランプ大統領の登場につながったとみる。
And after eight years of refusing to help the president govern—in fact, eight years of actively trying to make the country ungovernable—Republicans hadn’t just created a monster within their own ranks. All that inaction and gridlock helped to create a nation of politiphobes, people who (correctly) felt like they were being left behind in the economy and (correctly) felt that the political system was broken and rigged against people like them and (extremely incorrectly) felt that everyone who had anything to do with politics was more or less equally to blame.
「8年間にもわたり、大統領が国を治めるのを決して助けようとはせず、実際、国が統治不全となるようにがんばった結果、共和党は自分たちの組織に怪物をつくりだしてしまっただけではない。共和党の無為無策が国中を政治嫌いにし、人々は(当然ながら)自分たちは経済面で取り残されたと感じ、そして(当然ながら)政治システムが崩壊し自分たちのような人間はだまされていると思い、また(かなり的外れながら)政治にかかわる人間はみな程度の差こそあれ、同じように責めを負うべきだと感じていた」
そして、トランプ大統領が誕生し、政治の世界は一段と混乱が増している。良識あるアメリカ国民はどう闘えばいいのか。残念ながら奇策はない。本書では筆者本人は議員として粘り強く同僚を説得して、多少の妥協も重ねながら望む政策を実現する努力を続ける。有権者ひとりひとりが議員に対して手紙やメールを送ったり電話したり、政治集会に参加して声を上げ続けることが大切だと説く。
コメディアンとして鍛えてきた鋭い批判精神
本書では、上院議員の日々の活動を、ユーモアを交えながら語ったり、議員が私生活でどんな付き合いをしているかも披露したりして興味がつきない。自分のスタッフたちを養い事務所を維持するため、支援者たちに電話をかけて寄付金を集める苦労話なども明かす。フランケンが集める政治献金の9割以上は、一口50ドル以下の小額の寄付だというから驚く。まさに草の根の活動を続けている。そもそも、こんな政治家がアメリカにいるとは知らなかったから驚くことばかりだった。
2008年に初めて挑戦した上院選の顛末も初耳だった。対立候補との票差があまりに小さすぎて、相手が再集計を要求して8カ月も裁判が続き、正式に議員に就任するのが遅れてしまったという。なんともドラマチックな政界デビューであり、泥沼の選挙戦を振り返る文章でも、いたるところにジョークをちりばめる。とにかく、読んでいて笑いが止まらない本だ。同時に、コメディアンとして鍛えてきた鋭い批判精神にはっとさせられる文章も多い。例えば、次の一節はなぜか心に残った。
About a week after the election, I spoke to Gérard Araud, the French ambassador to the United States. He told me that in France, a Frenchman is someone who can tell you what village his family is from going back centuries. Immigrants never really get to become Frenchmen. It made me think back to the hideous massacre in Paris the year before. Here in America, of course, we’re all immigrants. Except, of course, for Native Americans against whom we committed genocide. I’m a Jew, but I’m also an American.
「大統領選の約1週間後、ジェラルド・アロー駐米フランス大使と話した。大使は私にこう教えてくれた。フランスでは、何世紀もさかのぼって先祖がどの村から来たか言えるのがフランス人だ。移民たちは本当の意味でのフランス人には決してなれない、と。その話を聞いて私は、その前の年のパリでの恐ろしい虐殺のことを思い起こした。ここアメリカでは、もちろん、私たちはみな移民だ。もちろん、私たちが集団殺戮したアメリカ原住民は例外だ。私はユダヤ人だが、アメリカ人でもある」
駐米フランス大使のなにげない言葉を紹介しつつアメリカという国家の多様性を強調する。フランス人の移民に対する差別的な考え方への皮肉も込められていると、評者は感じた。日本でも古今、お笑い出身の政治家は珍しくない。しかし、これだけの含蓄と笑いにあふれた本を書いた元お笑い政治家をまだ私は寡聞にして知らない。
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