エコノミスト誌8月19日号の解説記事が、フィリピンのドゥテルテ大統領は、経済については熱烈な改革派でも過激なポピュリストでもなく、それなりに有能だ、と同大統領の経済運営を評価しています。要旨は次の通りです。
8月初め、ドゥテルテは公立大学の学費廃止の法律に署名、一時的契約による雇用(雇用の約30%を占める)の制限や、農民支援のためにコメの輸入停止も約束した。さらには、中国からのインフラ投資の約束と引き換えに、中国への忠誠を誓っている。
エコノミストらは、貧困層出身の学生は少なく、学費廃止はむしろ富裕層への補助になり、コストもかかると指摘。私立大学は、学生の急減を心配している。
しかし、実はドゥテルテの過激な経済政策の大半は、こうした混乱を引き起こす前に経済官僚らによって骨抜きもしくは棚上げにされ、その大言壮語にも関わらず、ドゥテルテの1年目の経済政策は驚くほど地道なものだった。
フィリピン経済は東南アジアの中でも図抜けて元気で、昨年の成長率は6.8%とシンガポールやマレーシアを上回り、世界銀行は今年と来年についても同様の成長を予測している。英語を使える若年人口が多いことも追い風になっており、海外でメイド、看護婦、ウェイター等として働くフィリピン人からの送金額も年間約310億ドル、GDPの10%以上になる。
また、西側の企業が膨大な量の単純オフィス業務をフィリピンに委託しており、こうしたビジネス委託産業はこの15年でGDP比ゼロから9%にまで成長した。
一方、閣僚や官僚らはあまり事を荒立てないようドゥテルテを説得してきた。コメの輸入停止については、フィリピンはコメが常食なのに、稲作農家が少なく、輸入抑制は国民を困らせると指摘、その結果、ドゥテルテは輸入ルールを変え、国家の役割を縮小するに留まった。労働市場改革も当初の約束から大幅に後退、短期契約の酷いケースのみ取り締まることになった。中国との連携の話もこれまでのところ具体的成果はなく、中国が約束した投資もほとんど実現していない。
他方、ドゥテルテと閣僚、官僚らが一致して目指していると思われるのは、インフラ投資を賄うための税制改革だ。マニラの交通渋滞や各地の悪路や荒廃した空港を改善すべく、ドゥテルテは、インフラ支出を昨年のGDPの5.2%から2022年には7.4%に引き上げて解決を図ろうとしている。
既に財務相は、そうした投資を支えるべく財政赤字をGDPの2%から3%に拡大した。また一連の税制改正によって、2020年には年間3750億ペソの追加税収を見込んでいる。既に最初の法案は下院を通過、今年末には上院も通る見込みで、そうなれば、所得税の対象は年間所得25万ペソ以上となり、国民の5分の4は免除される一方、500万ペソ以上の所得にかかる税率は、30%から35%に引き上げられる。自動車税や燃料税も上がり、車を持つ富裕層への締め付けになる。酒、たばこ、甘味飲料にかかる税も上がるかもしれない。第2の法案は法人税を30%から25%に引き下げ、第3の法案は固定資産税、第4の法案は鉱業や投資収益等に焦点を当てる。
ドゥテルテの人気とカリスマによってこれらの改革法案は速やかに通る筈だ。ただ、政治家、企業経営者、投資家らは彼の予測不可能なところに不安を抱いている。また、財政赤字の拡大や経常収支の悪化もあって、ペソは年初以降、価値が下がっている。しかし、ドゥテルテは繁栄するフィリピンを相続し、政権を担ってからほぼ1年、フィリピンは今も繁栄している。これはその激越な言辞にも拘らず、彼が時々は人の意見に耳を傾けることを示唆している。
出典:‘The Philippine president’s zany ideas have not hurt the economy’(Economist, August 19, 2017)
https://www.economist.com/news/asia/21726315-when-it-comes-jobs-and-investment-rodrigo-duterte-more-reformer-wrecker-philippine