2024年12月22日(日)

田部康喜のTV読本

2017年10月11日

 北野武監督の第18作目の「アウトレイジ 最終章」がロードショー中である。「アウトレイジ」(2010年)と「アウトレイジ ビヨンド」(2012年)によって描かれてきた、ビートたけし演じる孤独なヤクザの大友の人生に帳(とばり)が下ろされようとしている。

 新宿の上映館の客席は、ほぼ満員だった。北野作品は内外で高い評価を得ながらも、観客動員数は伸びない、というジンクスは破られそうである。

 それもつかの間で、ビートたけしは初の小説「アナログ」を出版。この純愛小説をもとに、監督としての北野武は次回作においてヤクザ映画から一転して純愛を描く、と宣言している。

(iStock/ibamoto)

深見千三郎とはどのような芸人だったのか

 BSプレミアム「たけし誕生~オイラと師匠と浅草~」(9月20日、再放送・未定)は、ビートたけしがいまもなお「理想の芸人」と敬愛する、故・深見千三郎を通じて、たけしの実像に迫ったドキュメンタリーである。

 たけしは1972年、浅草のストリップ劇場・フランス座のドアをくぐった。入り口に「ドアマン募集」という貼り紙があったからだ。

 フランス座の総支配人である松倉久幸はいう。

 「浅草にはふらっときたんだね。芸人をつくる町だし。コメディアンから役者になろうと思ったんじゃあないかな」

 フランス座の座席に、たけしはすわり、正面の舞台にゆかりの人々の証言が映像で浮かび上がる。これに対して、たけしが実体験を語る構成になっている。

 「オレ逃げてきたんだよ。やることがなかった。ちょうど学生運動の時代で、大学の授業がなくて、新宿で喫茶店のボーイをしていた。ところが、同級生は就職したり、田舎に帰って実家の中小企業の社長になったり……」

 「浅草は楽なんだよ。芸人が酒を飲んで体を壊す、朽ち果てていく。俺は浅草を死に場所に求めたのかもしれない」

 深見千三郎とはどのような芸人だったのか。たけしはいつのまにか弟子になる。

 深見は戦前から一座を率いて全国を回っていた。アコーディオンやギターを弾いて歌うことも、ダンスも、コントもできた。戦時中に勤労動員にかりだされ工場で働いていて、事故で左手の指を4本失う。それでも、ギターを弾いても、コントをしてもそのことを観客に悟られることはなかったという。芸の力である。

 浅草出身の萩本欣一や東八郎が師匠と仰いだ。本人は、手の障害を持ち出して「テレビには出られないよ」と語っていたという。


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