退役軍人の待遇改善アピール
キーワードを扱った記事にはほかに人民日報オンラインの10月18日の記事、「十九大の報告について、あなたが知っていなければならない『キーワード』」がある。こちらも最初の方は観念的なキーワードが並ぶが、後半には健康戦略や国土の緑化など、生活と直結した内容が多くなっている。そんな中で軍事関連のキーワードが四つも並んでいる。作戦体系の更新や軍人の教育強化、軍隊の改革と続いて、最後に挙げられているのが「退役軍人管理保障機構」というものだ。
解説は「退役軍人管理保障機構を建設し、軍人と軍属の合法的な権益を維持し、軍人を社会が尊崇する職業にする」としている。中国では軍隊の改革で大幅な人員削減が見込まれている。退役軍人は軍事改革への不満や、退役後の待遇の悪さを背景にしばしばデモを起こしている。退役軍人の待遇改善は、社会を安定させるために必須で、党としても必死でアピールしなければならないポイントなのだ。
脱貧困など赤裸々な言葉も
より地に足の着いた観点からキーワードを選んでいる記事に、10月23日に新華社が報じた「代表が注目する十九大の5大『人気ワード』」がある。「教育の質と、美しい中国、精確な貧困脱出、農村振興、実体経済……上述の人民のよい生活に対するあこがれにかかわる話題が、十九大の代表の熱く議論するところとなった」としている。
ここでピックアップしているのは、中国の「発展の不均衡さと不十分さ」にかかわる問題だ。最後の二つの農村振興と実体経済は読んで字のごとくなので説明は省く。「教育の質」は都市部と地方の教育格差、都市内部での戸籍の違いによる格差から改善が望まれているところだ。「美しい中国」は、発展の陰に置いて行かれがちだった環境や生態系の保全に配慮したバランスの取れた状態を指す。
貧困脱出は「脱貧」という言葉で表される。日本なら「弱者支援」といったところだろうが、「脱貧」というあまりに赤裸々な言葉を使っているあたりに、厳然たる貧富の差が読み取れる。記事には代表の一人の「貧困人口と貧困地区に全国と共に小康社会(ややゆとりのある社会)に入れるようにするのは、わが党の厳粛に約束するところだ」という言葉が紹介されている。
今回キーワードとして取り上げたものは、国内の報道でキーワードとして大々的に取り上げられたものとは隔たりが大きいかもしれない。中国共産党が喧伝したい言葉より、言わなければ人民がおさまらない言葉を選んだ。党大会に現れた中国の実態の一部を示せれば幸いだ。
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