2023年2月8日(水)

オトナの教養 週末の一冊

2017年11月1日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――アメリカの事例として、オバマケア導入後の変化について書かれています。日本では、無保険者が保険に加入するのかという点ばかりが注目されましたが、実は医療全体に対する改革であったと。医療に関してオバマケアで一番変わった点とは?

真野:通称「オバマケア」と呼ばれる医療保険制度改革法により、医療提供側は量から質への変化を求められました。国民のヘルスケアへのアクセスや、予防の重視などです。

 要の1つはICTの導入です。日本では電子カルテが普及していますが、実はアメリカでは導入が進んでいませんでした。そこでオバマケアでは電子カルテの導入に補助金を出し、一気に普及しました。

 アメリカでは、一つひとつの病院が大きくなくても、それらがチェーン店のようにグループになっていることが多いのです。そのグループ内をICTで結び、患者の電子カルテなどの情報を共有する他、中核病院の近隣にある小さな病院の電子カルテも共有する動きがある。これにより、医療情報がデータベース化され、ビックデータとして利用できるので、病気の予防などにも役立てるようになった。

 また、先ほど触れた所得の低い人たちへの医療にしても、ICTを使うとコストが安く済むため、スマートフォンで予防などのヘルスケア情報を送ったり、患者が困ったときには、クリニックで診察してもらうより安く、チャットを通して相談することが可能になりました。

 また、無保険の人たちに関しては、オバマケアによりメディケイド(生活困窮者に対する医療保険)を拡大し、所得の低い人たちが大量に保険に加入しました。その結果、患者数が増え、医師の労働量が増えてしまいました。病院経営者には医師が多く、彼らの多くは民主党支持者で、オバマケアにも賛成していましたが、所得の低い人たちは、経営という観点からすると、薄利なんです。それまでは、患者一人を15分診察していたのに、短時間で診察しなければならなくなってしまった。この状況は、少し前の日本と似ています。日本は国民皆保険なので医療費が安く、患者はフリーアクセスで大学病院にもどんどん来院していましたから。

――患者が増えたアメリカの病院では、どのように対応しているのでしょうか?

真野:どこの国でも、高齢者が増えると患者が増える傾向はあるようですが、その時、すべての患者を病院が対応するのか、それとも病院以外の施設が対応するのかは国によってわかれます。

 日本でも軽い風邪などの症状の場合は近所の開業医のところへ行き、重い病気の場合は中核病院や大学病院などにかかるケースが多いですよね。その原理がアメリカでは徹底しているのに加え、コストが重視されます。大病院に限らず、小さな病院でも医師に診察してもらうと医療費が高くなる。

 そこで、医師ではなく、看護師の上級資格であるナースプラクティショナーが、医師の指示がなくても、簡単な医療行為ができるようになっています。

 それが、リテールクリニック(コンビニエントクリニック)と言われるものです。このクリニックではナースプラクティショナーのみでの対処が難しい場合に提携している医師からアドバイスを受け、病院などを紹介します。コンビニエントクリニックは、スーパーマーケットや薬局のなかに設けられていることが多く、対応が可能な場合には、ナースプラクティショナーが薬を処方します。また、予防接種は病院で受けるよりもコンビニエントクリニックで受けるほうが安く済みます。あとは、たとえば軽い糖尿病の患者さんの場合、病状に大きな変化がないことが多いので、コンビニエントクリニックで薬を継続して処方してもらうこともあります。

 アメリカの医療保険は民間の保険で、日本の自動車保険と仕組みが似ていて、保険を使わないほうが保険料が安くて済む免責という仕組みが導入されていることがあります。だから、保険を使わないコンビニエントクリニックを利用するのです。


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