2024年12月23日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2017年11月1日

 「体調が悪くても、医者がなんとかしてくれる」。そう考える人たちは少なからずいる。日本では、近所のかかりつけ医にちょっとした不調もすぐに診察してもらい、薬を処方してもらえるのが現状だ。このまま気軽に、すぐに病院で診察してもらえる時代は続くのか。財政危機が叫ばれる中で医療においてどんな変革が必要なのか。

 そこで、『医療危機――高齢社会とイノベーション』(中公新書)を上梓した多摩大学大学院教授で、医療経済・経営が専門の真野俊樹氏に変わりゆく各国の医療の実態や今後の日本の医療について話を聞いた。

――日本の医療にイノベーションが必要な理由とは?

真野:現在、日本の社会保障費は、諸外国と比べ潤沢です。ただし、高齢者の増加や医療技術の進歩により、医療費は毎年数千億円から1兆円も増加しています。

 一方で、日本の医療は、医師に対し不信感を抱いている患者さんもいますが、OECD加盟国の大腸がんの5年生存率や、その他の国際研究を見ても、世界でもトップクラスです。

 しかし、現状の高額化する医療費や日本の財政危機を考えたとき、現在の医療を維持するためには、医療を提供する側である医師や看護師、病院側は、無駄のない、効率的な医療を提供しなくてはならないでしょう。

 そのために医療提供側が産業的な、またイノベーションという視点を持たないと、今後、日本の医療は持続できないのではないかと考えています。

――今回の本では、さまざまな国の事例を取り上げていますが、なかでもアメリカについては多くページが割かれています。アメリカの医療を取り上げた理由は?

真野:社会保障費が充実している先進国では、予算をどう配分するかなどの政策がとられることが多く、イノベーションという視点を見つけにくいと思います。

 一方、社会保険が充実していない国々では、少ない公的医療費のなかで、いかに良い医療を提供するかと試行錯誤しているため、イノベーションが起きやすいと考えられます。ですからこの本では、国民皆保険がなかったり、民営化されている国に注目しました。

 特に、アメリカはご存知のように先進国のなかで社会保障が良くも悪くも充実していません。アメリカの医療は、所得が高い人たちには良い医療を、低い人たちには十分な医療が提供できていない、と日本では思われがちです。しかし、実際に医療関係者と話をすると、無保険であったり、所得の低い人たちへも良い医療を提供したいと医師たちは考えています。そうなると限られた状況の中でどうするか、言い換えればそこにイノベーションが生まれやすい状況があるんです。


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