2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年11月7日

 今回のサウジにおける女性の運転解禁には、2つの意味があります。

 1つは、それがサウジの社会的自由化で画期的な動きであることです。イニシアチブはムハンマド皇太子(通称MBS)が取ったと思われます。MBSが今取り組んでいる最大の課題は、サウジ社会、経済の石油への一方的依存からの脱却を図ろうとする野心的な「ビジョン2030」であり、その中には労働力に占める女性の割合の増加が目標の一つとして掲げられています。女性の運転解禁は、それだけ女性が働きやすくなることを意味し、「ビジョン2030」の目標の一つの推進に貢献することが期待されるわけです。MBSがこのタイミングで女性の運転解禁に踏み切ったのは、「ビジョン2030」を念頭に置いてのことと思われます。

 主たる動機がそうであったとしても、女性の運転解禁が、サウジでの女性の地位向上を象徴する画期的な動きであることは間違いありません。

 第2の意味は、サウジのワッハーブ派聖職者との関係です。サウジは国の創設当時よりサウド家がワッハーブ派を支持し、ワッハーブ派がサウド家を支えるという、サウド家とワッハーブ派聖職者の間の取極めが、統治の基盤でした。したがって、ワッハーブ派聖職者はサウジの社会に隠然たる影響力を持ってきました。運転禁止を含む社会における女性の厳しい監視も、ワッハーブ派僧侶の求めてきたことでした。その女性の運転禁止を解除したことは、これまでのワッハーブ派僧侶の権威への挑戦であると言ってよいでしょう。サウド家にとって、サウジ統治におけるワッハーブ派僧侶の重要性が変わってきたのかもしれず、もしそうであれば、今後もサウジの社会的自由化は進むものと考えられます。これまで禁じられていた公開コンサートが始まったことや、1980年代初頭以降、初めての映画館の開設が言われていることは、そのはしりと言えるでしょう。

 これらは、サウジの若者の求めているものです。サウジの若者が活躍することは「ビジョン2030」の推進に欠かせません。MBSは「ビジョン2030」の推進のためにも社会的自由化を進めると思われ、サウジ社会におけるワッハーブ派僧侶の影響力は徐々に弱まっていくものと予想されます。それは、サウジ社会の近代化のためにも、サウジと国際社会との関係においても、歓迎すべき動きです。

  
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