同じ広州の別の経営者(40代)も指摘する。
「中国で最も有名な経営者といえば、アリババの馬雲氏(ジャック・マー)やテンセントの馬化騰氏(ポニー・マー)ですよね。彼らの経営本も中国ではたくさん出版されているのですが、人生哲学や“生き方”にまで言及したものは少ないと思います。彼ら自身がまだ40代~50代で現役バリバリですし、まだ経営や人生を振り返る時期ではない。その点、日本で成功した経営者の本は、自らの幼少期から会社の成功と失敗、そして人生訓が具体的に描かれていて、とても説得力があるのです。中国の今の成長は、ある部分は日本と同じ道を歩んでおり、シンクロしたり、参考になったりするところが大きいと思います」
たとえば、小山昇氏の「毎朝30分の掃除」を参考にして実践している企業は多い。私が知っている広東省の日系企業、深圳志専刺綉や東莞田中光学科技などはその一例だ。両社では毎朝トイレ掃除と社内掃除を徹底して行い、実際に業績をアップさせたという実績がある。上海にある紳士服メーカーの経営者に会ったときにも「中国のトイレは汚い、とは言われたくない。うちのトイレはピカピカなので、工場に来た取引先のお客様は、必ずうちのトイレを使ってから帰るのですよ」と自慢げに話していた。これも、中国人経営者が日本の経営から学んで実践してきたことのひとつだ。
「他者への配慮」の重要性に気づく
確かに、稲盛氏の書籍を始め、日本の有名経営者の本は、経営のノウハウが書いてあるものだけではない。一見、業績アップとはあまり関係がないのでは? と思うようなこと、たとえば掃除や整理整頓、挨拶、連絡などについて書かれているものが多い。
その点について、前出の紳士服メーカーの経営者は「頭の中を整理することが大事。自分だけでなく相手にも見やすくする心配り、目配り、周囲への気遣いにつながることを著名な経営者自身の言葉で書いてあるので説得力があるし、自分も真似してみたいと思うのです。つまり他者への配慮という、中国人に最も欠けていることが書かれている」と語る。
他者への配慮とは、つまり「気づき」でもある。細かいところに気づくことで感受性が豊かになり、もし間違った方向に進んでいたら、その“兆し”を察知して早い段階で軌道修正することができ、相手が何を考えているのか、何を欲しているのかを想像することもできるようになる。それが社員の心を掌握することにもつながるし、ひいては顧客に必要とされる商品開発やイノベーションにもつながっていくということだ。