「日本の経営者の本ですか? 中国でもたくさん出版されている稲盛和夫氏、孫正義氏などの本はもちろん、他にもネット上で中国語に翻訳されているものなど、いろいろ読んでいますよ。日本企業は中国より30年以上も先を歩んでいるので、私たちにとって勉強になることが多いのです」
中国・広州で知り合った40代の中小企業の経営者と話していたとき、日本語ができない彼らの口から次々と日本人のカリスマ経営者の名前が挙がった。稲盛和夫氏、孫正義氏のほか、永守重信氏(日本電産会長兼社長)、小山昇氏(武蔵野社長)、小倉昌男氏(大和運輸(現ヤマトホールディングス)元社長)……。それ以外にも私があまり知らない経営者の名前まで挙がり、日本人のこちらのほうが恐縮してしまうほどだ。
稲盛氏の人生哲学や経営哲学を学ぶ自主勉強会「盛和塾」は、日本国内にとどまらず、中国でも有名だが、それ以外にも、中国では前述した日本人経営者を尊敬している、という声をよく聞く。昨今、日本企業の経営不振や不正事件などが取り沙汰されているだけに、日本人としては少しおもはゆい気がするのだが、イケイケであるはずの中国人がなぜ今、日本式経営や日本人の人生哲学に関心を示すのだろうか?
低成長時代へと移行する中国
私は新著『なぜ中国人は財布を持たないのか』の中で、リープフロッグ(かえる飛び)現象で、中国社会がITを駆使して一足飛びに経済発展を遂げたことなどを紹介した。スマホが財布代わりになり、モバイル決済することで中国は「財布不要」のIT社会を実現した。政府もITを使った新ビジネスを推進しており、中国はそうした面では、すでに日本の先を進んでいる。
だが、「中国の進化」について中国人の40歳前後の経営者と話していると、意外にも冷静で前向きな答えが返ってくる。
「中国は高成長から低成長へと移行中です。わが社もこれまでは流れに乗って右肩上がりの成長を実現できましたが、これから先の発展は厳しくなるでしょう。新たなビジネスモデルへと脱皮しなければいけないし、明確なビジョン、経営者のリーダーシップが求められています。お金儲けはもちろん大事なのですが、それだけでは若い社員たちはついてこないと思っています。一人の経営者として私自身が成長しなければいけないと、日々勉強中です」
こう語る広州でアパレル企業を経営する社長は49歳。いくつかの企業で働いた後に夫とともに起業し、20年以上突っ走ってきた。1000人以上の社員を抱え、広東省ではある程度、名前を知られるブランドに成長したが、問題はここから。そう考えて経営書を読み漁っているほか、大学院にも通っているという努力家だが、中国にはまだ「人生哲学」にまで踏み込んだカリスマ経営者の書物は少ないという。