2022年11月29日(火)

WEDGE REPORT

2017年11月24日

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中島恵 (なかじま・けい)

ジャーナリスト

1967年山梨県生まれ。新聞記者を経てフリージャーナリスト。主な著書に『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(ともに日本経済新聞出版社)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日本経済新聞出版社)、『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)『日本の「中国人」社会』(日本経済新聞出版社)などがある。

精神的な成長を求める中国人経営者たち

 私も以前、30代の中国人経営者と上海で食事していたとき、こんなことがあった。私たちが食べているテーブルが小さくて、次々と運ばれてくる料理でいっぱいになってしまった。ちょうど隣のテーブルの客が席を立ち、そこにはたくさんの空いた皿があったので、私は自分たちのテーブルで空いた皿を、ちょっとそちらに移し、店員に声を掛けた。すると、その中国人経営者は感心して私の目を見ると「こういう細かいことに中国人は気づけないんですよね……」と溜息交じりにつぶやいた。

 私自身はただ、自分が食べにくかったから隣に皿を移しただけのことで、別に立派なことをしたわけではないので驚いてしまったが、中国では自分自身が生きることに必死で、これまでは他人に配慮しないで自分勝手に生きてきた人が多い。つまり「利己主義」だ。稲盛氏が説くように「利他」の考え方はほとんどなかった。また、そうしなければ中国では生存競争が激しくて生き残っていけなかった。しかし、その経営者は繊細な人だったので、そのように感じてくれたのかもしれない。それだけでも、目の前に座っている人の行動をつぶさに観察している証拠だ。

 最近では、日本でも新幹線や飛行機のシートを後ろに座る人に配慮せずに倒す人が増えたような気がするが、中国人経営者からは「自分たち中国人には、圧倒的に配慮が欠けている。そういう意味でも周囲への気遣いがすばらしい日本の経営者から学びたい」という言葉が飛び出す。経営者の一部はそのことを強く自覚し、自分たちを客観的に見られるようになってきている。だからこそ、もっと配慮を学びたいのだという謙虚な姿勢に、逆に「他人に配慮することが当たり前の日本」に住む私たちのほうが襟を正さなければならないのではないか、と考えさせられてしまった。

 数年前までの中国では営業に関するノウハウ以外のことをいえば、「そんなことをやって、どんな得があるの?(そんなことをして、いくら儲かるの?)」という考え方が主流だった(今でもそういう考え方は残っているが)。しかし、低成長時代を迎え、もう一段階、上昇するために、中国の経営者たちは岐路に立たされているし、精神的な成長を求めている。

 中国の40代の経営者は、中国が改革開放する以前に生まれた世代で、日本の60~70代と同じく、貧しさや人情があった時代を覚えている。そんな共通体験を持つ世代だからこそ、彼らの心には日本のカリスマ経営者の教えが、より沁みるのかもしれない。

  
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