祭りの宴会は自家製焼酎で酒盛り
街道から川の丸木橋を何回か渡り山道を登って小一時間で目的地の村に到着。祭囃子のなか御神輿に乗ったヒンズーの神様が登場。村人たちが輪になって歌いながら踊る。昼近くにロジンという青年が我々を案内して彼の実家でお祝いのお食事を頂くことになった。
伝統的な木造の建物の二階の縁側に座ると次から次へと料理が運ばれてくる。ロジン青年はユリコさんの山岳ガイド仲間である。年齢は32歳。ロジンの両親やお兄さんも挨拶に出てきた。お祝いの席ということで自家製の地酒も振舞われる。年恰好からオジサンが主賓のような位置づけにされてしまう。
ロジンの親父さんやお兄さんの話を聞いていると一家は土地の有力者のようである。ロジンは現在マナリーで旅行業・山岳ガイドをやっており事業拡大構想を熱心に語り始めた。インド人避暑客向けのプログラムを拡充するために近隣の村々と連携して広域の観光資源を開発してネットワークで繋ぐという構想である。頼もしい好青年だ。
お兄さんは家業の建設業を会社組織にして道路工事とトンネル工事を請け負っている。地域経済の発展のためのインフラ整備が使命と熱い思いを語る。男たちでグイグイと焼酎を呷り話も盛り上がってきた。
ユリコさんの意中の男性は責任感溢れる好青年
そのとき焼酎で上気したユリコさんが隣に来てささやいた、「タカさん、ロジンが結婚をどう考えているのかそれとなく聞いてください」。ユリコさんの意中の人はロジンだったのだ。ユリコさんと好青年のロジンはお似合いだ。
ロジンにこの地域では男性は何歳くらいで結婚するのが一般的かと聞くと「25歳までに結婚するのが普通だ。今年32歳なので2年以内には結婚したい。家族からも結婚を急ぐようにプレッシャーを受けている」と心情を吐露。
ユリコさんの恋の行方は
村からの帰り道でユリコさんにロジンの気持ちを伝えた。ユリコさんは「私は彼の家が旧家であることを知っているわ。牛の世話でも何でもする覚悟もある。彼と一緒に暮らせるならば何も要らない。もしも彼と結婚できなければインドに留まる意味がないわ。そうなったら一度日本に戻ってから人生を考える。スイスにでも行こうかな。」と自分に言い聞かせるように呟いた。
それから1カ月後、私はインド最北端のラダック地方で過ごしてからヴァシュシトに戻ってきた。ユリコさんは山岳ガイドの仕事で不在であった。キキさんに尋ねると残念ながらユリコさんの恋は成就しなかった。ロジンの家族は保守的有力者なので地元の相応しい家の娘との結婚を強く望んでいた。異教徒の日本人との結婚は無理とロジンは断念したようだ。
⇒第18回に続く
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