2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年12月13日

 オバマ政権時代の国務副長官であったブリンケンによる、トランプの対中国政策批判です。もっともな指摘もありますが、トランプを批判するために習近平を持ち上げすぎているところもあります。

 「トランプは壁を作るのに忙しく、習は橋をかけるのに忙しい」とブリンケンは指摘します。一見そのようにも見えますが、今日の中国が「自由貿易とグローバリゼーションのチャンピオン」とみる人は決して多くはないでしょう。

 「一帯一路」構想の中身はいまだにそれほど具体的ではありませんが、それが「自由貿易」の代表的構想とはとうてい思えません。

 習近平の国内基盤は盤石でしょうか。国内基盤が安定していれば、「習近平思想」などと、毛・鄧に次ぐ指導者であるとの特別の名称を冠することに躍起になることもないでしょう。国内の人権抑圧ぶりを見れば、そこには権力を集中させることで危機をのりこえようとの脆弱性が見て取れます。

 トランプのアジア歴訪中の発言には、過度の外交辞令の類が多く、国内の選挙活動と同じレベルのパフォーマンスで外交を扱っていると批判されてもやむを得ないでしょう。その発言には一貫性の欠けることも少なくありません。

 トランプ訪中にあたり、米国企業家と中国の間で28兆円にのぼる商談を成立させたのは、習近平の巧妙なところであったと言えるでしょう。あたかも「朝貢」してきた相手に大きな手土産を与え、相手を懐柔するというのは、いかにも中国の皇帝時代の戦術に近いものがあります。

 他方、トランプとしては、習近平を持ち上げたのは(とくに習が毛沢東に匹敵するかのような歯が浮く表現を使用)、北朝鮮問題で中国からより強い協力を得るためでしょう。これに対し、中国は商談でトランプを喜ばせたが、北朝鮮を含む他の諸問題では、目立った妥協を示した形跡はありません。

 習近平は「太平洋には米国と中国を受け入れるに十分なスペースがある」との表現を使ったと報道されています。この表現は、太平洋における影響力を中国と米国で二分するというような意味合いをもっています。そこには日本の存在あるいは日米安保条約の存在を、軽視ないし無視しようとの意思が隠されています。この表現は胡錦濤時代に出てきたものであり、習近平になってからはしばらく鳴りを潜めていましたが、今次トランプのアジア歴訪に合わせ、習近平からもち出されたことには、警戒を要するでしょう。河野外相が「中国は太平洋に面していない」と指摘したことは正鵠を射ています。

 オバマ時代にスローガンとなった「アジア太平洋へのリバランス」政策という言葉には、実態がありませんでした。かわりに、「インド太平洋地域の協力」という概念が安倍総理から出されたことは、今後の米国のこの地域への強いコミットメントを引き出す上からも極めて有用なことと思われます。

 確かに、トランプ政権の対外政策を批判することは容易です。ただし、かつてのオバマ政権のように「戦略的忍耐」という言葉で無作為な状況が続いていれば、今日の北朝鮮の脅威の緊迫性は見過ごされていたに違いありません。

  
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