2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年12月13日

 ブリンケン前米国務副長官が、11月8日付けニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、中国と米国の世界における指導的立場が交替しつつある、と批判的に論評しています。要旨は次の通りです。

(iStock.com/Photoraidz/scanrail)

 トランプ大統領と習主席のやっていることを見ると、リーダーシップの焦点がよくわかる。トランプが壁を作るのに躍起になっている一方、習近平は橋を架けるのに忙しい。

 2017年1月の世界経済フォーラムでは、中国は自由貿易とグローバリゼーションの新しいチャンピオンであると宣言した。アジアインフラ投資銀行からの出資と「一帯一路」構想は、海運、道路、鉄道、そして橋のネットワークを通じてアジアと欧州を結ぶ1兆ドルの投資をする予定である。これにより、中国は資源にアクセスするとともに、余剰生産能力を輸出し、戦力投射のための戦略的足場を平和的に確保することになる。

 トランプが多国間主義とグローバルガバナンスを断ち切っている間に、習近平はそれらをますます囲い込んでいる。

 トランプ政権は、TPPやパリ協定から離脱し、欧州とアジアで中核となる同盟に疑問を提示し、移民の扉を閉めようとした。

 一方習近平は、気候変動アジェンダで主導権を握り、WTOの紛争解決制度を採用し、世銀とIMFの中国のシェアを増やすことに成功した。また、中国は主要なアジア諸国と豪州、NZは含む一方で米国を含まない貿易協定を進めている。加えて、今や中国は国連分担金とPKOの主要な貢献国の1つとなっている他、世界の先端技術科学者やイノベーターを中国に引き付けるべく芝居をうっている。習近平は、情報技術と人工知能などの分野で21世紀のグローバル経済を支配するための戦略的投資を行っている。

 だがトランプの「戦略的」投資は、オートメーションによって奪われたものを製造業に戻すというものだ。

 これらすべてが習氏の言う「他国のための新しい選択」を提示するものであり、長らく米国が担ってきた国際秩序の仲裁者としての立場を、中国がとってかわろうというものだ。

 中国の外国投資は、中国人労働者や地元の労働者の代わりに請負業者を使用し、貧困国に巨額の負債を抱えさせ、厄介な結果を残すとともに、汚職を助長するなど、搾取的な構造を残させる可能性がある。

 外部に対する中国の影響力を維持する習近平の能力も、様々な挑戦を受けている。山積する負債、不平等格差の拡大、高齢化、生産性の低下、国有企業の非効率性、大気汚染などである。それに益々抑圧的になるシステムは、仲間の権威主義者にはいいアピールになるかもしれないが、中国人民にとってはそうではない。

 だがこうした欠点は、他に魅力的な代替先がなければ問題にならないかもしれない。もしトランプ主導のナショナリズム、保護主義、単独主義と外国人嫌悪によって米国の後退が続けば、中国モデルが勝利することになる。

 世界は自然に組織されるものではない。国際秩序に対する米国の貢献は、民主主義や人権、言論や集会の自由、労働者の保護、環境、知的財産といった自由主義的価値と進歩的な規範を前進させたことにある。

 トランプが中国に地歩を譲る中、20世紀後半を形作ったリベラルな国際秩序は不自由な秩序になっていく可能性がある。

出典:Antony J. Blinken,‘Trump Is Ceding Global Leadership to China’(New York Times, November 8, 2017)
https://www.nytimes.com/2017/11/08/opinion/trump-china-xi-jinping.html


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