現に、トランプ政権の発表や一連の報道等を見ていると、意図してエルサレムを首都として認める宣言部分を強調し、実質的な意味を持つ大使館移転を前面に出さない戦略が取られている。大使館移転準備の指示が出されただけで、すぐに移転が始められるわけでもない。イスラエル(及び米国内のユダヤ系)側とパレスチナ(及び国際世論)側の双方に配慮した苦肉の策となっている。しかも一国の首都というものは本来、様々な事情からその当事国が自ら決めるものであって、他国による決定に依存する問題でもない。それを外国が承認することが、まさに大使館を置くという行為である。
イスラムの強硬各派によるテロ事件が急増すると警鐘を鳴らす向きもあるが、過激派側は常に十字軍への敵意を煽り、エルサレムをイスラエルから解放することをお題目として謳いこそすれ、実際にそれを主目的に戦っているグループは今や皆無である。現実的には、すでにイスラエル・パレスチナ間で解決すべき問題になっており、今回の措置は、テロが増加する要因にはなるが、それに直結するわけではない。
さてイスラエルにおけるアメリカ大使館の現況であるが、大使館は他の国々と同様、テルアビブ市内の海岸通りに置かれている。そこでは外交関係を扱うほか、イスラエル内に住む米国人への領事館サービスも提供する。しかし米国は同時に領事館をエルサレムに設置しており、東エルサレムや南部休戦ライン至近の無人地帯も含み、市内計3カ所に施設を有している。そこでエルサレムやガザ・西岸に住む米国人及びパレスチナ人へのサービスが提供されている。さらに大使館がテルアビブからエルサレムに移転する場合の候補地もすでに取り沙汰されており、エルサレム南方の休戦ラインの西側にあたる地域であると言われてもいる。
米国では、深刻度を増すロシア疑惑をはじめ難問山積の内政に加え、北朝鮮問題でもかつて無いほどに緊張感が高まっている。トランプ政権は、TPP・パリ協定等においてもすでに選挙公約を実施しており、この度のエルサレムの首都認定・大使館移転決定も、国内のキリスト教保守派やユダヤ系に対する支持基盤対策と見るべきであり、実際の大使館移転については、きわめて慎重に、かつ現実的な対応を取ろうとするだろう。
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