あからさまな“恫喝外交”はまさにトランプ氏の真骨頂だった。国連総会の緊急特別会合は21日、聖地エルサレムをイスラエルの首都と認定した米決定を批判する決議を圧倒的多数で採択したが、同氏はこれに先立ち、反対する国への米援助を打ち切ることを強く仄めかした。しかし、「援助と投票」を絡めた発言への反発は激しく、米国の国際的な孤立は一段と深まった。
標的はエジプトか
決議はトルコとイエメンが提案。投票結果は賛成128、反対9、棄権35、欠席21。賛成の中には、日本を含め、英仏独伊など米国の有力同盟国が軒並み入っており、決議に拘束力がないとはいえ、米国にとっては大きな打撃だ。特に、中東の同盟国であるサウジアラビア、エジプト、トルコ、ヨルダンなどが賛成に回ったのが痛い。トランプ氏の圧力が逆効果を招いた格好だ。
米国の他国への経済援助や国連など国際機関への巨額な拠出に批判的だったトランプ氏にとっては、エルサレム問題での世界的な反発に我慢がならなかったようだ。特に、米国から莫大な援助をもらっているのに「肝心な時に支援しない」(アナリスト)国に対する不満が一気に爆発した。
同氏は20日、国連総会の特別会合が米国に首都認定の決定の撤回を求める決議を採択する見通しになったことを受け、「米国から数億ドルや数十億ドルも受け取っておきながら、われわれに反対するのなら、やらせておけばいい。(かえって)節約できる」などと反対国に対する援助打ち切りを示唆し、決議に賛同しないよう圧力を掛けた。
中東で米国から10億ドルを超える経済・軍事援助を受けているのはイスラエルを除けば、エジプトとヨルダンしかない。いずれも米国にとっては戦略的な同盟国だ。特にエジプトには、これまでに774憶ドルを援助、ここ数年は年間13憶ドルの軍事援助を行ってきた。
しかし、エジプトのシシ大統領は最近、ロシアのプーチン大統領と急速に接近し、ロシア軍機にエジプトの空軍基地の使用を認め、ミサイルなど最新の兵器売却契約にも調印した。米国はこうした動きに神経をとがらせていたが、特別会合に先立つ国連安保理で、米決定に反対する同じ内容の決議案をエジプトが作成したことから大統領の怒りに火が付いたようだ。
「ドルで意思は買えない」
また1月に予定されているペンス副大統領の中東歴訪で、エジプトのイスラム教スンニ派の最高学府アズハルやコプト派キリスト教徒の指導者らとの面会がエルサレム問題でキャンセルされたこともトランプ氏の怒りの遠因になっているのは間違いない。シシ大統領の独裁政権下のエジプトでこうした重要行事がシシ氏の承認なしに決定されることはないからだ。
ペンス氏の中東歴訪は当初、10月に予定されていた日程がいったんは12月に延期され、さらに議会での税制改革法案の投票が大詰めを迎えていたという理由で1月中旬に延期された。しかし、本当のところはエルサレムの首都認定問題で混乱の渦中にある中東に足を踏み入れるのは得策ではない、との判断があったと見られている。
しかし、ペンス氏は何のために今、中東に行くのか、という基本的な疑問が浮上している。本来の目的は中東和平交渉の促進のためだったはずだ。しかし、エルサレムをイスラエルの首都と認定したことで、パレスチナ側は交渉拒否の姿勢を鮮明にし、アッバス自治政府議長も同氏との会談を拒んでいる。
トルコのエルドアン大統領はトランプ氏の恫喝に対し「ドルでトルコの民主的な意思は買えない」とツイート、中東各国の考えを代弁した。こうした反発が広がっている中で、米国の決定に理解を求めることは難しく、ペンス氏の歴訪の実現自体が危ぶまれる事態になるかもしれない。
トランプ氏が援助を影響力行使に利用するのは今回が初めてのことではない。テロ掃討への協力に煮え切らなかったパキスタンに対しても援助停止をちらつかせたし、また北大西洋条約機構(NATO)の国防費支出目標に達していないことに対して、米軍撤退も仄めかして圧力を加えている。