法律は成立したものの、98年10月以降、本法はクリントン、ブッシュ、オバマの各政権において一貫して、国家の安全保障の観点から、半年ごとの免除措置を発動して先送りされており、現在に至るまで20年近く、全く実施されることがなかった。就任早々のトランプ大統領も、今年5月末に大使館移転の決定をひとまず先送りしている。
大使館移転問題と今後の展開
トランプ大統領は、2016年の大統領選挙において、選挙運動期間中から米大使館のエルサレム移転を公約としており、16年9月に訪米したネタニヤフ首相との会談でも、「当選すれば米国はエルサレムを首都と認める」と約束しており、就任後の17年2月には、「二国家でも一国家でも、双方が望む方で良い」と発言、しかしその後、「二国家共存の方が好ましい」と発言を自ら微調整している。
今年5月、就任後初の外遊としてサウジ・イスラエル・パレスチナ等を訪問した際も、24日のエルサレム・デイを巧妙に避け、22日に到着したテルアビブ空港のエプロンにて大統領専用機エアフォースワンを背景に演説を行い、またエルサレムで嘆きの壁を訪問するも、ネタニヤフ首相の同行要請を断固拒絶している。結局、当初取り沙汰されたように、米国大使館移転についてコミットせず、中東和平解決のための仲介の意思を明らかにしたに留まった。それは翌日のパレスチナ訪問でのアッバース大統領との会談でもほぼ同様であった。
今回、トランプ政権は、今年6月以来の、政権発足後の2回目の機会を捉え、免除を発動しないことを決定し(12月6日に公式表明)、エルサレムへの米国大使館移転が自動的に確定した。これに対し、アラブ・イスラム諸国が一斉に反発した他、EUなども批判の声を上げた。国連安保理も18日、エジプト起草の首都認定撤回の決議案を採決に回し、欧州の理事国や日本を含め、米国を除く安保理14か国がすべて賛成したが、米国の拒否権によって葬り去られた。安保理の決定を受けて、国連総会はエルサレムの地位変更を無効とする決議を21日に採択、先の安保理決議とは違い、これには法的拘束力は無いが、本問題についての国際社会の総意が早速、示された形である。
エルサレム大使館移転の行方であるが、最悪のシナリオでも、大使館は数年かけて段階的に「西」エルサレムに設置されるとか、同時に「東」エルサレム及びその東部周辺などにも、現在の領事館に加え、例えばパレスチナ代表部等を設置するなどの手段を講じて(郊外のアブ・ディスなど、過去の和平交渉でパレスチナ側の首都候補地として名が挙がった場所はある)、パレスチナ側及びアラブ・イスラム世界に一定の配慮を示すことにより、地域が急激に不安定化する状況を慎重に避けようとするだろう。