補講 北朝鮮入門

2017年12月25日

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礒﨑敦仁 (いそざき・あつひと)

慶應義塾大学准教授

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部中退。在学中、上海師範大学で中国語を学ぶ。慶應義塾大学大学院修士課程修了後、ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省専門分析員、警察大学校専門講師、東京大学非常勤講師、ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロウ・ウィルソンセンター客員研究員を歴任。慶應義塾大学専任講師を経て2015年から現職。共編に『北朝鮮と人間の安全保障』(慶應義塾大学出版会、2009年)など。

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、元ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15~18年論説委員(朝鮮半島担当)。18年4月から外信部長。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『韓国新大統領 文在寅とは何者か』(17年、祥伝社)、『新版 北朝鮮入門』(17年、東洋経済新報社、礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著)など。訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。

金正男氏殺害事件と米国によるテロ支援国家再指定

 核・ミサイル実験とともに耳目を集めたのは、2月13日に発生した金正男氏殺害事件であろう。金正恩委員長の異母兄である金正男氏がマレーシアのクアラルンプール国際空港で殺害された。犯行には猛毒の神経剤「VX」が使われた。

 マレーシア当局の捜査によって北朝鮮の情報機関による犯行である可能性が強いと判断されたが、北朝鮮側はいっさいの協力を拒否した。実行犯のベトナム人女性とインドネシア人女性はマレーシア当局に逮捕され、裁判が進められている。この事件によって、それまで親密な関係を保ってきた北朝鮮と東南アジア諸国との関係は冷却化し、東南アジアでの北朝鮮イメージは悪化した。

 なお、金正男氏は「キム・チョル」名義の北朝鮮旅券を持って海外に滞在していたことから、北朝鮮では「キム・チョル事件」と呼ばれ、事件への関与は全面否定されている。

 トランプ大統領は、この事件を根拠に北朝鮮をテロ支援国に再指定した。もともとは1987年11月の大韓航空機爆破事件を受けて1988年1月に指定され、2007年2月の六カ国協議での合意を受けて2008年10月に指定解除されていたものである。

 北朝鮮国内では、2013年12月の張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長の処刑以来、側近幹部への粛清はやや落ち着いたように見えていたが、最近は引き締めの動きが再び伝えられる。

 2017年11月20日には韓国の情報機関・国家情報院が、党組織指導部による朝鮮人民軍総政治局への思想点検の結果として黄炳瑞(ファン・ビョンソ)総政治局長や金元弘(キム・ウォンホン)第1副局長らが処罰されたと韓国国会に報告した。黄炳瑞氏は権力序列で5位以内に入っていた最高幹部の一人である。ただし、北朝鮮では処罰として農場などに送られた幹部が一定期間の後に復権することも珍しくない。「革命化教育」と呼ばれるものだ。

 経済制裁によって北朝鮮の態度を変化させることはできていないが、同国の経済に少なからぬ影響が出てきていることは、各種声明や『労働新聞』などによる反発ぶりからも想像に難くない。11月頃からは、十分な燃料を持たぬまま木造漁船が沖に出て日本の沿岸に漂着するという事件も多発した。11月13日には板門店の共同警備区域(JSA)で北朝鮮軍人が韓国に亡命する事件も発生している。韓国に亡命する脱北者数自体は昨年より減少傾向にあるため、象徴的な事件だけをもって北朝鮮社会全体の変化を語ることはできないものの、年末には金正恩委員長指導のもと約5年ぶりに「党細胞委員長大会」が開催され、国内の引き締めが図られた。

 金正恩委員長は毎年、元日に「新年の辞」という演説を行う。軍事から経済、外交までを包括した内容で、いわば北朝鮮版の施政方針演説である。「核武力完成」を宣言した金正恩委員長が何を語るのかは、2018年の北朝鮮情勢を占う大事な材料になる。

  
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