同盟国アメリカとの不和
第4は最近のアメリカとの外交関係の悪化である。トルコ政府は当初、トランプ政権の発足を歓迎していた。オバマ前大統領、そして対抗馬であったヒラリー・クリントンがシリア内戦において、トルコが警戒するクルド勢力(民主統一党とその軍事部門である人民防衛隊)への支援を表明していたためである。またクリントン陣営には、トルコ政府が2016年7月15日に発生したクーデター未遂事件の首謀者と批判しているギュレン運動の関係組織から多額の献金があったと報道されていた。こうした理由からトルコ政府は当初トランプを支持したが、トランプ政権はトルコの期待を裏切る政策を採り続けた。シリア内戦ではクルド勢力に加担し、ギュレン運動の指導者でアメリカに在住しているギュレン師のトルコへの送還にも全く応じていない。10月にはイスタンブールのアメリカ領事館で働いていた職員がギュレン運動に加担していたことを理由に逮捕されたことで、アメリカは一時滞在に必要なビザのトルコでの発給を停止した。トルコ側も対抗措置としてアメリカ国内でのビザの発給を停止した。また、トルコがアメリカの対イラン制裁に違反し、イランの制裁逃れを手助けしていた可能性が浮上し、関係者がアメリカで逮捕され、2017年12月現在、尋問が行われている。
エルサレム首都認定に際して積極的な対応を見せているトルコであるが、そこから浮かび上がったのは、2019年11月の大統領制移行に向けて内政を重視せざるを得ないこと。中東域内でサウジアラビア、UAE、エジプトとの対立が鮮明になりつつあり、新たな独自勢力として動き始めていること。同盟国であり、伝統的にトルコが頼りにしてきたアメリカとの関係が悪化しつつあること、の3点である。NATO加盟国でEU加盟交渉国でもあるトルコだが、もはや単純な親米西側諸国として見なすことはできず、サウジやイラン、イスラエルと同様に中東情勢に大きな影響を与えうる独自のプレイヤーと考えなければ、今後の展開を見誤ることになる。加えて注視すべきはロシアの動きだ。上述の三カ国およびトルコの全てと友好関係にあるロシアは、アメリカが中東から退場しつつある中で、この重要地域の新たなバランサーとして君臨できる素質は有している。シリアからロシア軍の一部が撤退しつつあるように「財布との相談」を踏まえてではあるが、トルコの反米姿勢の強化によってその現実味は強まる。
2019年11月の選挙に向けて内政に注力したいエルドアン大統領であるが、混沌とする中東情勢を泳ぎ切ろうとする中で、多くの外交課題を抱えることになっている。今回のエルサレム首都移転問題を巡る対応を経て、トルコは新しいステージに進めるのだろうか。エルドアン大統領と公正発展党の力量が試されている。
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