2024年12月9日(月)

中東を読み解く

2017年12月28日

 中東レバノンのハリリ首相の突然の辞任劇はサウジアラビアを牛耳るムハンマド皇太子の暗躍によるものだったことが明らかになった。米ニューヨーク・タイムズ(12月24日付)が伝えた内幕は皇太子が国内だけではなく、国外の政治をも自分の思い通りに操ろうとしている驚くべき実態を浮き彫りにしている。

(afby71/iStock)

用意されていた辞任演説

 このストーリーに入る前にレバノンの現状を説明しておく必要があるだろう。モザイク国家レバノンは、かつては中東のスイスと呼ばれ、夜の街でも繁栄を誇ったが、イスラム・キリスト教徒の内戦、パレスチナ・ゲリラの支配を経て、今はシーア派武装組織ヒズボラが政治、軍事両面を牛耳っている。

 2016年10月、空白が続いていた大統領にキリスト教マロン派のアウン元司令官が選出され、スンニ派のサード・ハリリ氏が首相に、ヒズボラに近いシーア派のベリ氏が国会議長に就く挙国一致内閣が2年ぶりに発足した。その内実はヒズボラがシーア派の盟主イランの支持を、ハリリ氏がスンニ派の守護者サウジアラビアの後押しを受けるという、それぞれ後援者が付いたものだった。

 しかし、サウジアラビアはこのところ、ヒズボラがシリア内戦に出兵し、さらには敵対する隣国のイエメンに軍事顧問団を派遣するなど影響力を強めていることに苛立ちと怒りを強めていた。こうした中で、ハリリ首相は10月下旬にサウジを訪問、ヒズボラの台頭に不満をぶつけるサウジ側をなだめていた。

 同紙がレバノンや西側当局者らの話として伝えたところによると、11月3日、ハリリ首相がイランの高官と会談した直後、サウジのサルマン国王名でリヤドをすぐに訪問するよう招請された。首相はサウジから経済的な支援を受け、レバノン人でありながらサウジの国籍も保有している。だが、サウジの首相への扱いは一国の指導者に対するものではなく、まるでサウジの従業員に対するようなものだった。

 ハリリ首相はリヤドに到着すると、ムハンマド皇太子からの連絡を自宅で待つように言われ、午後6時から翌午前1時まで待ったが、連絡はなかった。11月4日の朝、皇太子に会いに来るよう伝えられ、宮殿に向かった。ハリリ氏は皇太子と砂漠にピクニックに出かけるものと思い込み、ジーンズ姿だった。

 しかし、首相は宮殿で、サウジの警護員らによって携帯を没収されるなど乱暴な扱いを受けた。しかも、用意されていたのはレバノン首相の“辞任演説”だった。ハリリ氏はその場から動くことを禁じられ、ボディーガードが自宅にスーツを取りに戻った。

 同氏はその日の午後2時半、ムハンマド皇太子のオフィスからホールを隔てた一室に連れていかれ、サウジのテレビ局のカメラの前で辞任の原稿を読んだ。同首相はこの中で、シナリオ通り、ヒズボラを非難し、生命の危険にさらされていると語った。

 このハリリ首相の辞任表明から数時間後、ムハンマド皇太子は王族11人を含む有力者約200人を汚職で逮捕、高級ホテル「リッツカールトン」などに拘束した。そして同夜には、イエメンからリヤドに向けて弾道ミサイルが発射された。サウジ国内では立て続けに重大な出来事が起こったのである。


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