2024年11月21日(木)

科学で斬るスポーツ

2018年1月25日

誰もが驚く、別人の滑り

 オランダ留学を経た小平の滑りの変化は、「別人の滑り」と言われるほど大きく進化した。正解と考えていた滑りとはどんなものだろうか。

 スピードスケートの選手は、重心を低くし、腰を前方に折り曲げるのを基本姿勢とする。空気抵抗を減らすためだ。スケートでの推進力は、氷を蹴る力と、空気抵抗、氷面の摩擦によって決まる。蹴る力が同じだとしたら、なるべく空気抵抗を減らす努力は不可欠である。

 図1、図2、図3を見て欲しい。

図1 スピードスケートの基本姿勢。腰を前方に折り曲げ、重心を低くする
図2(左)、図3(右)
姿勢の高さを低くすればするほど、空気抵抗が少なくなることがわかる
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 姿勢を低くすればするほど、空気抵抗が小さくなることが読み取れる。そのため、オランダに渡る前の小平は、胸を思い切り前に倒すこと、つまり上体を深く折り曲げ、低い姿勢を維持することに力を注いだ。

 しかし、オランダでの「正解」はそれではなかった。

 コーチらに胸を下げすぎと指摘された。骨盤も前傾し、前につんのめりそうな効率の悪い、無駄な姿勢だった。図4の左のイラストがそれである。この姿勢がとれたのも、小平の脚力が並外れて強靱だったからにほかならない。

図4 オランダに渡る前の小平の滑りの姿勢のイメージ(左)と、現在の姿勢のイメージ(右)

 オランダで学んだ姿勢はこれとは大きく異なる。右のイラストを見て欲しい。上体は起き上がり、骨盤は立っている。上半身の力(重さ)は下半身にしっかりと伝わっている姿勢。何より違うのは腰の位置だ。上体が立ってはいるものの、腰の位置は依然より格段、低くなっていることがわかる。

 これによって滑りは大きく変わった。


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