2024年12月22日(日)

赤坂英一の野球丸

2017年4月12日

 最近、中学や高校の野球を取材していて、プロの影響による意外な弊害を耳にするようになった。例えば、昨年までセ・リーグ二塁手部門で4年連続ゴールデングラブ賞を受賞している守備の名手、広島・菊池涼介の真似をして、ケガをしてしまう中学生、高校生が急激に増えているという。

菊池涼介選手(YUTAKA/アフロスポーツ )

 ご存じのように、菊池の守備位置はほかの二塁手より非常に深い。そこから、マウンド付近に転がったゴロを猛ダッシュして捕り、振り向きざまに一塁へ送球して打者をアウトにする。あるいは、センター前へ抜けそうな当たりを横っ跳びでつかまえ、間髪入れずに二塁ベースカバーに入ったショートにグラブトスして一塁走者を封殺したり、寝転がったままで一塁に矢のような送球をして打者走者を殺したりする。

 そういう菊池の華麗なプレーを高校生たちが真似をして、ケガをするケースが増加していると、ある神奈川県の高校野球関係者がこう指摘するのだ。

 「菊池選手のプレーは、彼の高い身体能力があって初めて可能なんです。強靱な体幹や下半身に加え、人並み以上に肩が強くなければああいう捕球、送球はできません。それなのに、まだ身体をつくっている最中の中高生が同じようなプレーをしたら、どうしても足腰に過度の負担がかかる。肩を痛めたり、足首をひねったりする子供も多い。野球の守備は定位置で守り、身体の正面で捕って投げるのが基本です。指導者としては、そういう基本を身につけていない子供を、プロの物真似に走らせないようにしないといけない」

 それと似たような現象が、実はフィギュアスケートの世界でも起こっている。羽生結弦や宇野昌磨の高度や難度の高い技術を身につけようと背伸びするあまり、ヘルニアになったり、股関節を痛めたりする小中学生が増えているという。実際に、そうした幼いフィギュアスケーターのケアをしている知人のトレーナーはこう訴えている。

 「フィギュアの場合、ジャンプして着氷したとき、足腰や股関節に受ける衝撃は体重の約4倍と言われています。羽生で224㎏、引退した女子の浅田真央で188㎏、ジュニアで15歳の本田真凜でも168㎏。しかも、重い金属製のブレードがついたスケート靴を履いて跳んだり、回転したりして、硬いリンクの上に着氷するのだから、体操の床運動などと比べると衝撃の大きさ、身体の受けるダメージがまったく違う。実際、スケート教室には、腰や股関節を痛めている子がいっぱいいるんですよ」

 その上、このトレーナーが子供の身体を気遣って、「練習を休ませてはどうか」と進言しても、受け入れてくれないコーチが多いという。フィギュアはリンクの上を滑る感覚を鈍らせてはならない、そのためには毎日氷に乗らなければならないとされており、「少々身体が痛くても(氷に)乗れるなら乗れ」と指導されるのだそうだ。オリンピックや世界選手権でメダルを狙おうというほどの才能のある子供であれば、なおさらだろう。

 今回の世界選手権を左股関節の骨折で欠場した宮原知子も、そうした幼少期からの疲労が蓄積した結果と見られている。10日に引退を発表した浅田真央も、幼少期から猛練習を重ねていたことで知られており、身体に相当なダメージが蓄積していたことは想像に難くない。


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